外伝7−3.ゼリーもケンカも僕が悪い

 アガレスとアモンがケンカした次の日、二人はもう一日お休みしますと連絡があったの。仲がいいね。でもパパはお仕事がある。マルバスもお仕事していた。僕はプルソンがお休みなので、お勉強の予定がない。


「パパ、昨日のお土産をセーレに渡してくる」


「気をつけていけよ。ベロ、ニィ、頼んだぞ」


 僕の護衛役に抜擢されて、ベロは嬉しそうに尻尾を振る。ニィはベロの背中に乗るのが普通になった。歩くのを面倒がるんだよ。


 ニィを乗せた大きなベロが僕の横を歩き、一緒に階段を降りた。僕も少し背が伸びて、足も長くなったの。だから転ばないで降りられるんだ。一番下の階へ着いたら、そこから地下への階段を進む。料理用のお部屋の扉を叩いた。


「セーレ、僕だよ」


「おやおや、カリス様かい。ちょうどよかった、おやつを一緒に作りませんか」


「作る!」


 お土産を先に渡して、手を洗って腕まくりした。ベロとニィは毛皮があるから、部屋の隅でお座りして待つ。料理に髪が落ちるのは、悪いことなんだって。我慢してもらうから、あとでベロ達のおやつも用意しよう。


「今日はゼリーだよ。真ん中にこれを入れる作業を、カリス様に任せたいんだけど」


 話しながら、セーレが作ったのはゼリー。赤くて透き通ったゼリーの中に、イチゴを入れるの。綺麗だね。ゼリーはあまりゆっくりすると固まると言われて、慎重に、でも早く入れていく。


 そこへセーレの旦那さんが来た。天使はきらきらした人が多い。ミカエル達もそうだけど、旦那さんもそう。長い髪が金色に光ってた。青い目も透き通ってる。でもパパの方が綺麗だけど。


「甘い香りがするね、おや? カリス様かな」


 座って僕に視線を合わせてくれる。この天使は優しい天使だね。


「そうだよ」


「僕はタブリスという。セーレとの結婚式では、お祝いに来てくれてありがとう」


「いいの。セーレを幸せにしてね」


 僕がお願いすると、タブリスは目を見開いた後で笑った。僕の頭を撫でてくれる。


「もちろん幸せにするさ。カリス様はアザゼル様のお子だよね」


「違うの、僕はパパの息子なの」


 そうしたらタブリスは首を傾げた。ちゃんと伝わってないのかな。不安になる。僕はアザゼルが産んだけど、今はバエルパパの息子だよ。どう説明したらいいのか、困っちゃうな。


 うーんと考えていると、セーレが「困らせたらダメよ」と口を挟んだ。頭の上でお話が始まって、気づいたら二人は大声で言い争っている。


「そうじゃないって、君は頑固だな。僕の話をちゃんと聞いて」


「聞いてるわよ! あなたこそ、いつも上からそうやって。私が悪いと決めつけるんだから」


 どうしよう、僕のせい? 悩んだらダメだったのかも。おろおろする僕が振り返ると、ゼリーが固まっていた。まだ半分しかイチゴ入ってないのに。


 泣きたくなって、ずずっと鼻を啜る。


「パパ」


 名を呼んだら、パパが現れた。目の前にふわっと黒髪のパパの背中が見えて、すぐに僕を振り返って抱き締める。


「何があった?」


 言葉が詰まって、でもパパに心の中でいっぱい説明する。話を聞くパパの顔が、少し怖くなった。やっぱり僕が悪いのかも。ごめんなさい。

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