135.鎖は冷たくて痛いから嫌い
犬の飼い方の分厚い本を広げる。半分以上は文字で、難しいことが書いてあった。真剣に読んだけど、ほとんど意味が分からない。知らない言葉を繰り返していると、パパが横から覗き込んだ。
「パパはだめ」
「もう仕事は終わったから、アガレスも叱らないぞ」
それならいいの。閉じた本をもう一度広げる。さっき僕が首を傾げたら、パパが僕のお手伝いをしようとして叱られたんだ。急ぎのお仕事があるなら、僕は後でいいのに。パパが僕のせいで叱られるのは嫌だもん。
「さて、どこまで読んだ?」
いっぱい読んだと褒めながら、パパは太い文字の部分を指差した。ここは分かるよ。
「毎日外をお散歩する」
お散歩って、僕が歩くときのお散歩? 頷くパパが細かい文字を説明してくれる。犬はお外が大好きだから、毎日決まった道を同じように歩くといい。それなら朝がいいのかな。
「そうだな、朝なら時間が取れるから一緒に行こう」
「うん」
「明日からいつもより早く起きるぞ」
「僕できる!」
ちょっとだけ早く起きて、パパと手を繋いでベロと……あれ? この絵が変だよ。犬に鎖つけてる! こんな酷いことするの? 鎖は冷たくて痛くて、じゃらじゃらしてる。僕は鎖とかつけるの嫌い。悲しい気分になった。
「ふむ……紐をつける場合もあるが、ベロはまだ仔犬だからそのままで構わん」
「いいの?」
「その代わり約束だ。ベロが誰かを噛んだり吠えて騒いだら、首輪をすること。いいな?」
首輪は犬に付ける道具だった。これは僕も付けたことある。引っ張られると首が苦しくなるけど、他の人を噛まなければいいんだよね? 見上げるとパパが頷いた。だから僕は嫌だけど……ベロを信じる。
ちゃんと説明して、いけないよと教えたら、ベロは悪いことしないと思う。誰かを噛んだら、相手の人は痛いし。それが僕に優しくしてくれる人だったら悲しい。
きゃん! 足元でくるくる回るベロを抱っこするために、椅子から降りた。手を伸ばすと舐めて頬擦りする。大丈夫だよね? ベロは人を噛んだりしないよ。
「いいよ、僕がベロに教える」
「いい子だ。これは犬を飼うときのルールだ」
他にも教えてもらった。犬との間に主従関係を築くことや、躾をすること。躾は痛くて怖いと言ったら、優しく教える躾もあるみたい。僕は優しく教えたいな。主従関係も、ママと子どもだよってベロがわかって、僕の言うことを聞けばいいの。
「ベロは僕の子どもだよ。だから僕の話をちゃんと聞いてね。人を噛んだらいけないよ」
きゃん、わんっ! 勢いよく返事をするベロは賢そう。僕の言ってる言葉が分かるみたい。すると隣で見ていたパパが、僕を抱っこして椅子に座らせた。膝の上でお座りしてるベロを見ながら笑う。
「確かに言葉が通じてるような反応だな」
うー、わん! 返事がさっきと違う。書類を整理していたアガレスやマルバスも、不思議そうな顔でこちらを見ていた。
「この犬、まさか……」
「いや、そんなはずないですよ」
「分からんぞ」
不安そうな二人に、パパはにやりと笑った。ベロのこと、何か知ってるなら僕も知りたいな。
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