129.僕、仔犬のママになる!
「もう大丈夫。綺麗に洗って、休ませてあげて」
ミカエルが僕に仔犬を渡した。パパが支えてくれて受け取った仔犬は、わんと元気に鳴く。もう痛くないって伝わってきた。
「ありがと、ミカエル。僕、ちゃんと絵を描くね」
「出来たら僕を呼んで。すぐ受け取りに来るから」
アガレス達は怒ったような顔だけど、もうミカエルに何も言わなかった。白い羽を広げて帰るミカエルに手を振って、仔犬を抱き締める。
「もう痛くない?」
僕が尋ねると「わん!」と大きな返事があった。この子、僕の言葉が通じるのかな。赤い血や汚れがついてるから、仔犬をお風呂に入れることにした。汚れたままベッドに入ると、シーツが汚れちゃうからね。綺麗にして寝た方がいいと思う。
ご飯も食べられるなら、食べさせて。あと足の裏も真っ黒だ! 僕の顔をぺろぺろ舐める仔犬を呼ぼうとして、名前を知らないことに気づいた。
「パパ、この子の名前知ってる?」
「いや。名前はないみたいだ。カリスが名前を考えてあげなさい」
大きな手が僕の銀髪をくしゃりと撫でた。名前がないのは悲しいよ。僕もそうだった。名前があって、誰かが呼んでくれると、幸せになれるの。
尻尾を振って僕を見る仔犬はまだ汚れていた。これから綺麗になって皆に大切にしてもらえるように、可愛い名前を考えたいな。
「パパも手伝ってくれる?」
「もちろんだ。カリスの手伝いをさせてくれ」
仔犬を抱いて、用意されたお風呂に入る。湯気が暖かいけど、仔犬はびっくりしたみたい。いきなり鳴き出した。撫でると止まるけど、離れるとまた鳴いちゃうの。まだ赤ちゃんの大きさだし、ママがいなくて怖いのかな。
「僕、この子のママになる」
「ん゛んっ、そうか? まあいいか」
何か間違えた? でもいいなら平気だよね。ママは子どもを大切にして、ご飯を一緒に食べて、名前を呼んでくれる人だから。僕は仔犬をそんな風に幸せにしてあげたい。
パパが僕を座らせて、髪の毛を洗ってくれる。その前に仔犬を座らせた僕は、真似て仔犬を洗い始めた。お湯をかけた時はびっくりしてたけど、今は大人しくしてる。
仔犬、黒も赤もとれて茶色になった。
「いい子だね、もう少しだよ」
声を掛けて手のひらで優しく撫でた。赤く汚れた耳を手で拭う。耳にお水入ると良くないんだって。仔犬を洗い終えたら、パパが用意した桶に入れた。上から優しくお湯を掛けたら気持ちよさそうにしてる。その間に僕とパパは体も綺麗にした。
湯船に入った僕は数え始める。20まで数えるのを片手分繰り返し、パパを振り返って「いいぞ」と許可をもらった。桶で大人しい仔犬を抱き上げる。一緒に外へ出て、拭こうとした仔犬がぶるぶると体を揺らした。毛についた水がぶわっと僕やパパに掛かる。
「うわっ」
「ははっ、やられたな」
パパは大笑いして、再び僕をお風呂へ戻した。二度目だからすぐ出たけど……お部屋に戻ったら、仔犬は絨毯の上を転がり回ってた。何をしてるんだろう? 真似しようとしたけど、パパに止められて服を着る。
アモンが「今日は絶対にこれで!」と置いていった服だよ。犬の服で、骨の形の縫いぐるみが付いてた。これなら僕がちゃんとママに見えるかも!
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