124.真っ直ぐに育つ芽をそのままに

 純粋で愛らしい顔立ちか。珍しい色合いの子だからか。カリスは妙な輩を引き寄せる。銀髪と青い瞳の組み合わせは貴族に多いから、拐われる可能性が高かった。おまけに無邪気で好奇心も強い。きょろきょろと周囲を見回す様子は、目立つことこの上なかった。


 守り切る自信があるから、注意はしない。この子が真っ直ぐ育つ芽であるなら、余計なことをして曲げる必要はなかった。水を与え日の当たる場所を確保し、カリスの成長を妨げないことが重要だ。


 知らない人が黒く染まる姿に驚いたようだが、人間の襲撃など高が知れている。すぐに叩きのめした。カリスの目に映る男は、黒く崩れていたそうだ。それでも黒髪の俺や黒い毛皮のアガレスに対して、忌避感を抱かない。この子は本質を本能で見抜いていた。


 己に対して害意を持つか否か。心眼をそちらに向けているのだろう。伝わる感情は、擽ったく感じるほど優しい。かつての姿に似せて化けた俺の本質を、綺麗と表現するのもカリスだけだ。


「さあ、お買い物をして帰ろう。今日はお土産を見つけるぞ」


 襲われた事実を誤魔化すように気を逸らせば、素直なカリスは目を輝かせた。お土産という単語は、この子にとって冒険の合図だ。見知らぬ品の中から選ぶ行為は、何も手にしたことがなかったカリスにとって大冒険なのだ。


「お土産? 僕も選ぶ!」


 思惑通り楽しそうな声を上げたカリスに頬擦りし、こちらに秋波を送る女性達を無視して歩き出した。本来の姿を見せたら卒倒するくせに。皮一枚の価値に固執する人間に興味はなかった。


 カリスは周囲を見回し、小さな店に目を止めた。何か気になるのか、じっと見つめる。


「あの店に入ろう」


「うん」


 中は文房具が溢れていた。所狭しと品が積み上げられ、分類も碌にされていない。失敗かと思ったが、カリスは興奮した様子だった。凄いと連呼しながら、店の中をぐるりと眺めて笑う。カリスが気に入ったなら構わない。近くの品物を手に取ってみる。


 手作りのようだ。似たような形をしたペンはあるが、そっくり同じ物は見当たらなかった。


「気に入ったもんがあれば、声をかけておくれ」


 店主の老婆が声をかけた。こういう雑多な店は幼い子を嫌がることも多いが、彼女は気にしない。カリスを下ろしてやると、自分で商品に手を伸ばし……手前で止まった。老婆を振り返り、迷いながら声をかける。


「これ、触ってもいい?」


「自由に見たらいいよ」


 老婆はふっと笑って頷いた。目を丸くしたカリスの喜びが伝わってくる。優しい人だと褒めながら、ゆっくり手を伸ばした。触れたガラス製のペンを眺めて、ちらっと老婆の様子を確かめる。叱られないとわかって、安心した顔で笑った。


 ペンを傷つけないように両手で包んで確認し、戻してから隣のペンを手に取る。時間をかけて幾つも確認し、数本を選んだ。


「それでいいのか?」


「うん。皆の分ある」


 これが誰の分だと色を見せながら説明するカリスを連れ、うたた寝する老婆の前に立つ。カリスに金を持たせ、自分で買うよう話した。緊張した顔で、老婆の説明を聞いて金を並べる。金貨と銀貨を使い、お釣りをもらった。


「出来た!」


「よく頑張ったな、カリス」


 お釣りと一緒に、綺麗な小さい羽ペンを老婆が差し出した。


「……偉い子だね、これを持っておいき。婆からのお土産さねぇ」


 訛りが混じった老婆の親切な言葉に、丁寧にお礼を言ったカリスが受け取る。大きな青い目がこぼれ落ちそうなほど見開かれ、ゆっくりと細められて笑顔になった。


 良い買い物が出来たな。外へ出て歩き出し、ふと気になって振り返った。店が見当たらない。……あいつらか。脳裏に浮かんだ白い羽の元同僚を思い浮かべ、悪態をつきかけ飲み込んだ。今回は追求しないでやろう。










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新作情報

『魔王様、今度も過保護すぎです!』


 お待たせしました! 『魔王様、溺愛しすぎです!』の続編です。単独でもお読みいただけます。


「お生まれになりました! お嬢様です!!」

 長い紆余曲折を経て結ばれた魔王ルシファーは、魔王妃リリスが産んだ愛娘に夢中になっていく。子育ては二度目、余裕だと思ったのに予想外の事件ばかり起きて!?


 シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。

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