120.食べるお魚と眺めるお魚

 朝起きてご飯を食べたら、お勉強やお仕事の前にお魚の池まで階段を降りる。毎日やるんだ。池を覗いて、用意した餌を少しだけあげた。たくさん入れると水が腐るんだって。よく分からないけど、お魚が苦しくなるのはヤダから我慢。


 お魚はご飯足りなくてお腹空いちゃう。そう心配したら、プルソンが教えてくれた。数日なら食べなくても平気だった。でも毎日あげるけど。だってご飯がないのは辛いし悲しいもん。


 虹色のお魚はお風呂にいた頃より大きくなった。赤い魚が減った気がするの。


「赤い魚? どれ……確かに減ったな」


 パパは池を見てすぐに数えたみたい。僕が数えるとお魚が動いて、また数え直しになっちゃう。パパは簡単そうに全部数えて、2匹足りないと言った。誰かが連れて帰ったのかな。


「パパ、誰かのお風呂にいるかも」


「……調べてみるが、たぶん違うぞ」


 そうなの? 僕達みたいにお風呂で飼いたい人がいたかも知れないよ。昨日も今日もお魚のご飯じゃなかったから、食べちゃったこともないと思うの。


「綺麗だね」


「見事に観賞魚ばかりだな」


 観賞魚? パパの説明では、見て楽しむお魚のことだった。最初に池を作るお話は、僕が屋台で買ったお魚から始まってる。だから食べられるお魚を泳がせる予定だったみたい。


「両方一緒はダメなの?」


「同じ淡水魚どうしなら問題ないか」


 パパもよく知らないというので、プルソンに尋ねることにした。今日は僕の文字の練習に付き合う約束だから、午後からプルソンが来るんだよ。お部屋に戻って絵を描いて、パパのお膝で印章を押すお手伝いをした。


 お昼にシチュー、野菜とハムを挟んだパンを食べる。両手で食べられるパンは柔らかくて、気をつけないと中身が落ちちゃう。ぎゅっと握り過ぎたら、今度はパンが潰れちゃうの。大変だけど、上手に食べられるようになった。


 シチューは、ちゃんと右手にスプーンを握る。それから口を開けて「あーん」で食べさせてもらった。もぐもぐと野菜を噛んでいたら、向かいで食べるアガレスが苦笑いする。


「食べさせるのもいいですが、マナーのお勉強になったら困りますよ」


「問題ない。魔皇帝である俺がゲーティアの法だ」


「勝手に法やしきたりを変更しないでください。そもそも食べさせるなら、どうして右手にスプーンを持たせるのですか」


「この姿が可愛いからに決まってるだろう!」


「そこに異論はありません」


 パパとアガレスが難しい仕事のお話をしてるみたい。僕は大人しく待っていた。口の中の野菜を食べ終えたから、また口を開く。パパは話し終えたのか、僕の口にシチューを入れた。今度はお肉だ。


「マナーはあと数年必要ない」


 ぱくっとパパの出したスプーンを咥えると、アガレスがくすくすと笑った。怒った声だったのに、機嫌が直ったの?


「そうですね。外交の場に立ち会うこともありませんし、ゲーティア内ではまったく問題ありません」


 パパが満足そうに「そうだ」と頷いた。お話終わった? 僕、シチューの向こうにある赤い果物食べたいな。

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