107.黒く塗り潰す記憶に星明かりを添えて

 ミカエルとガブリエルの絵を描いてるの。お菓子のお礼にあげるんだ。あのお菓子は美味しかったし、アガレスがすごい勢いで頬張ったから好きなんだと思う。


 パパに言われて、真ん中に僕も描いた。左がミカエルで、右がガブリエル。目の色が違うし、二人とも金髪だけどガブリエルの方が白っぽいんだよ。僕とパパはいつも一緒だから、真ん中の後ろにパパも描く。長い黒髪と銀の目で、銀のツノも付けた。パパの翼は秘密だから全員なし。


「描けた!」


「……っ、なぜ俺も一緒なんだ?」


「だって僕がいるなら、パパも一緒だよ」


 変なことを言うパパだね。僕はいつも、ずっとパパと一緒なんだ。だからミカエルとガブリエルの間に僕を描いたら、パパも一緒に決まってるのに。


「決まってるのか」


 嬉しそうに呟くパパに抱き着いて、僕は膝の上に座った。それから広げた絵を見る。皆笑ってる絵だよ。


 パパは仕事の紙を横に避けて、アガレスやマルバスにも絵を見せた。二人とも眉に皺が寄るけど、絵は褒めてくれる。なんでだろう……あ、もしかして!


「アガレスとマルバスは、後で別の絵を描くからその時一緒だよ」


「はい、嬉しいです」


 アガレスがすぐに笑ってくれた。突かれてマルバスもにっこりする。やっぱり! 僕がアガレスやマルバスを描き忘れたと思ったんだ。そんなことないよ。これは天使の二人にあげる絵で、この部屋に飾る絵じゃないからアガレス達がいないだけなの。


 身振り手振りを交えて説明し、頷いた二人を描くためにまた床に降りた。パパは膝が寂しいと言ってたけど、膝もパパじゃないのかな? パパが寂しいの?


 床に座って、絵を描く絵の具や水差しを引っ張る。それからパパの足に寄りかかって紙を広げた。アガレスが左、マルバスが右でその後ろにアモンも。アガレスの後ろにセーレを描いて、パパと僕がいる。プルソンはどこがいいかな。パパとアモンの間に描いた。


 たくさんいると色がいっぱいで、塗っていく僕も楽しい。途中で紙が足りなくなって、もう一枚並べた。名前を書くために筆を置いて、クレヨンを掴む。プルソンとセーレが書けるかな。アモンまではお勉強したんだけど。


「書けないところは手伝おう」


「ありがとう、パパ」


 安心した僕だけど、アガレスが「待ってください」って声を掛ける。どうしたのかと思ったら、絵が乾いてからクレヨンを使うように教えてもらう。このまま書くとぐしゃぐしゃになるの? 大変! びっくりしてクレヨンを箱に片付けた。


「食事をして、寝る前になれば平気でしょう」


 アガレスは色々知ってるね。パパもそうだけど、僕も早く覚えて一緒に仕事したいな。


 時間が出来たので、僕は新しい絵を描き始めた。黒い大きな丸を描いて、中に僕を描く。小さく膝を抱っこした僕には、銀色の鎖がついてた。その先は黒い輪の外で見えない。周りの隙間を、黒で塗り始めた。


「カリス? カリス、もういいぞ」


 パパに言われて手を止めたら、紙は真っ黒だった。さっき描いた僕も、銀の鎖も全部ない。黒しかないの。


「これは夜の空にしよう。ほら、星を描くぞ」


 言われるとそんな気もする。黄色や白を手にとって、ぐりぐりと星を描いた。本当だ! 夜のお空になった。にこにこと絵を持ち上げる僕を、パパが後ろから抱っこする。


「この絵は別の部屋に飾るからもらってもいいか?」


「うん、いいよ」


 夜の空の絵は、マルバスが持っていった。どのお部屋に飾るんだろう。

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