93.少しだけだよ、すぐに起きるから

 アモンやプルソンのお菓子は包んで残した。明日渡すんだよ。昼間アモンは顔を出す予定だし、プルソンは文字を教えに来るからね。


 夜にプリンが出る話をしたら、パパも喜んでくれた。夕ご飯が楽しみだな。パパはまだお仕事があるし、セーレも夕ご飯を作る。僕は寝るお部屋で絵を描いて待つことにした。パパは難しいお話があるんだもん。隣のお部屋だから、扉を開けたままにして戻る。


 絨毯の上に座って、板を置いてもらう。その上に紙を広げた。白い紙に、色鉛筆とクレヨンで絵を描く。こないだ乗ったお馬さんのリック、アモンを乗せてあげよう。仲良しでいる姿を描いた。僕とパパが乗ってる絵、それからお馬さんの世話をしているオロバスも。


 おやつを食べすぎたのか、少し眠い。目を擦って絨毯に寝転んだ。色鉛筆を握ったまま、目を閉じる。少しだけだよ、すぐに起きるから。だから、まだ色鉛筆は片付けないでね。


 そう思いながら欠伸をひとつ。握った赤い色鉛筆が滲んで、目を閉じた。眠る僕に誰かが触れる。パパ? ちょっとだけ寝るね。









 ぷつんと何かが切り離された。その衝撃で目が覚める。びっくりした、今の何だろう。目を開けた僕は、知らない場所にいた。いつもパパと寝てる部屋じゃない。どうして? なんで? パパ!


「パパ、どこ」


 不安になって声に出すけど、パパが来ない。いつでもすぐ助けに来てくれたのに。どうしたの? 暗いよ、何も見えないのに。パパがいないなんてヤダ。


 鼻を啜る僕の手を誰かが掴んだ。温かい手なのに、怖い。


「やだっ! 離して! パパ、パパぁ!!」


 助けを求めて喚いて暴れた。どうしてだか、そうしないといけない気がする。このままは危ないの。だからパパを呼ばなくちゃ。必死で手を振り解こうとする僕は、無理矢理抱き抱えられた。ゴツゴツした体じゃなくて、ほっそりしてる。なのに、僕が暴れても無視された。


 蹴飛ばそうとした足は押さえられて、振り回す手は届かない。どうしよう、助けて……パパ。泣きながら「パパ」と呼び続ける僕は、どこかに下ろされた。投げられたりしないから痛くないけど、すごく怖い。震える僕の足首に何かが巻かれた。ぱちんと音がする。


 泣きながら僕は両手で足首に触った。ぴりっと痛い。触らないと平気だけど、触ると手のひらがピリピリした。鼻を啜って前を向いた僕に、光がいっぱい当たる。眩しくてよく見えないけど、人がいっぱいいるみたいだった。


「こんな幼子が、本当に?」


「だが罪人には違いない」


「罪に年齢は関係ないのですよ」


「わかっていても、悪魔に唆されるとは惜しい」


「ええ、気の毒なことです」


 口々に話す声で、いっぱいの人がいるんだと分かった。でもどの声も冷たい。ゲーティアの人達と違う。この声は僕を嫌いな人の声だった。奥様や一緒にいた男の人の話し方に似てる。


 怖くて、寂しくて、涙が溢れた。パパはいつも僕を助けてくれた。なのにここへ来て抱っこしてくれないのは、どうして? パパ、僕はパパと一緒がいいのに。見えない恐怖の中、多くの声が聞こえる現状に混乱した。


 パパ、僕を早く見つけて。














※数話で終わる鬱展開です(o´-ω-)o)ペコッ

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