21.パパと呼んであげて
アモンは何も持ってない。どうしたんだろう? お洋服を持ってきてくれると聞いたのに。不思議に思って振り返った僕の頬を、バエルが突く。示された通りにアモンを見たら……。
両手にお洋服を抱えていた。僕がさっき見た時は持ってなかったのに! 魔法みたい。すごい! 大喜びした僕に、アモンが「大成功」と笑った。嬉しくなってバエルと手を繋いで揺らす。
アガレスやマルバスが食事のお皿を片付けた机に、お洋服が並んだ。ふわふわの動物のお人形みたいなのもある。いくつか色を確認した後、違うのと交換になった。何もない場所に手を入れて、お洋服を違うのと交換する姿はやっぱり魔法だ。
「カリスちゃん、これを着てみて」
渡されたのは白いふわふわのお洋服だ。バエルと一緒に隣の部屋に行って、今着ている服を脱いで着てみた。柔らかくて気持ちいいし、外もふわふわしてる。
「よく似合う。可愛いぞ」
「ほんと?」
「嘘は言わない。可愛い過ぎるカリスが拐われないか、心配なくらいだ」
「じゃあ脱ぐ」
慌てて止めるバエルに首を傾げる。心配ならこれを着なければいいんだよ。アモンが作ったから着て欲しいと言われた。脱ぎかけた服をもう一度着て、背中にある帽子も被った。フードって呼ぶみたい。
アガレス達がいる部屋に戻ると、アモンが手を叩いて喜んだ。アガレスやマルバスも、可愛いと言ってる。僕、可愛いの? お洋服じゃなくて?
「これは何の姿かわかる?」
くすくす笑うアモンの赤く塗った爪が、鏡を取り出した。僕、この道具は知ってる。自分の姿が見える道具だよ。覗くと、いつもの僕じゃなかった。白いもこもこした動物で、耳の上あたりに何かついてる。手で触ると、鏡の中の僕も動いてツノが見えた。
「ツノ!?」
「羊よ。よく眠れるように御呪いもしたんだから」
丸くなったツノが付いてて、バエルを振り返ってツノを指さした。僕にもツノが出来たよ。バエルの息子になったから、同じツノ! 興奮して説明する僕を抱き上げて頬擦りされる。気持ちいい。
「他には何を作ってきたんですか」
アガレスが広げたお洋服は、しましまの猫と長い耳の……兎? 後はバエル達みたいなお洋服だった。ズボンとシャツ、首のリボンも付いてるみたい。きらきらするボタンがあって、ひらひらの飾りもいっぱいだった。
「もっと作るけど、大急ぎで仕上げたのはこれだけよ」
アモンは時間が足りないの、と困った顔をする。時間、どこかに落ちてればいいのに。そう言ったら、笑いながら頬に頬を押し当てられた。バエルみたいにキスかと思ってびっくりしたけど、あれはバエルとだけなんだって。
「バエル、これ何?」
よくみたら、もこもこの服はすべて動物のお人形も並んでる。これはどうするの?
「抱っこしてたら可愛いと思ったのよ。それより、カリスちゃん。バエルをパパと呼んであげて」
「……パパ?」
バエルに向かって呼んだら、いっぱいキスされた。顔中、あちこちだよ。嬉しいんだって。アガレスにも言われて、今日からパパと呼ぶことになった。息子の僕だけの呼び方だよ。僕が特別みたいで嬉しいな。
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