第2話 アラサー幼女(仮)くさいことを言いました。
「名前…ないの?」
「はい」
「今まではどうしてたの?」
純粋な疑問だ。
「そうですね、うちは貧乏で──」
「呼び方よ」
「え」
「今まではなんと呼ばれていたの?」
「今まで、ですか。…ガキ、下民、蛆虫、それから──」
わざとやってるのかな。
表情を見る限り違うよね。
「もういいわ。ごめんなさい。…ねえ、私が貴方に名前をつけていい?」
わ、すんごい速度でこちらを向いた。
「!お嬢様が、ですか」
「嫌ならいいわ」
「とんでもない!」
「なら貴方は…うん。今日から貴方は"ベネディクト"。貴方が今日も生きていることを私が祝福するわ」
「ベネディクト…」
「ええ。ベネディクト。貴方の名はベネディクト。嫌?」
涙目だよこの子。嬉し泣きだと思いたいな。
「いえ、ありがとうございます。……では、このベネディクト、一生、お嬢様のおそばに御仕えいたしましょう」
「大袈裟よ。喜んでくれてよかったわ」
そう言えば、ベネディクトがさっき口にしたセリフ、どこかで聞いたことがある気がするのはなんででしょ。
んー、いずれわかるよね。
「さ、て、と。執事さん、いらっしゃいますね。少し宜しいですか?」
扉に向かって叫んでみる。
「よく、気づかれましたな」
おわ、いい声やなぁ。ん、気づいた理由?
そりゃあ、扉時々動いてますし、真っ白な髪に真っ黒な服、加えてこのお屋敷ときたら、ほぼ執事さんで間違いないわけです。
見た目は子供、頭脳はアラサーですからね!それにうちのボーイさんはみんな紺に近い黒だからね。名推理だったな、ふふん。
あ、私の知らないお屋敷情報。
この体にもとからいた子の記憶とかかな。
長くなりそうだし後で考えよう。
「今日からこの子はベネディクト。そのことを周知して欲しいの。お願いできますか?」
「承知いたしました。お嬢様」
この人は信頼できる。
根拠はないけど、きっと。
「ありがとう」
失礼致しますと言い執事さん、もとい、
スチュワートさんは部屋を出た。
「あの、お嬢様」
「ん、どうしたのかしら」
随分と不安そうな顔をしていらっしゃる。
どうしたというんだ!
お姉さんに教えてごらんなさいな。
「どうしたの?」
「なぜ、おれにこんなことまでしてくださるのですか?おれ、貧乏人ですよ」
そこは関係ないと思うのだけれどなぁ。
「自分で卑下するような地位から上がって来た貴方にはきっとなにか、素晴らしいものがあるわ。それに私は、実力者を認めず血や財力だけで決めるのが、得意ではないの」
多分前世の記憶があるからこそ言えることだ。私が純粋なこの世界の人間だったなら、言えないであろうこと。
ねぇ。
「ベネディクト」
手を差し出す。
「この手を取るなら今から貴方は──」
そっと、手が重なる。
「貴方は、私のものよ」
ふふ、と笑いが溢れる。
「もう、何泣いてるの?ベネディクト」
「お嬢様、この部屋はなんです?っ、ごみが目に入ってきましたけど」
「ふふ、貴方は一つの埃も見落とさないでちょうだいね」
「ええ」
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