第120話 シュン、バスターを撃つ。視点、シュン

「シュン! お前、知っているか」


 振り返ると、奴がいた。

俺をパーティーから追放させた張本人は、剣を構え全身からオーラを発する。


「お前、もしかしてまだ!」


「いいから黙って見てろ! 攻撃は......最大の防御っていうだろが!」


 ブレードの中心を隔て、青と白の刃を持つ剣。

膨れ上がった彼のオーラはその武器へと一気に流れ込み、発光した。


「シュンさん、事情を話すと長くなるので手短に言います!」


「うわっ! カタリナさんもいたの!」


「はい! カリブ様のドラゴンキラーに続いて、バスターをお願いします! 大至急!」


 大至急だって?

でも、魔法は全部無効化されて効かないはず。

彼は敵に加担していたのだから、その事を知らないわけがない。

俺がおどおどとしていると、隣にいたシュエリーさんが脇腹をどついてきた。


「やれ馬鹿! ほかに選択肢ないんだか......らっ!」


 小柄だけど、この眉をしかめた顔はバハムート級に恐ろしかった。

俺はビビりながら急ぎ足で腕を空へ向けて突き出す。


「で、どいつの撃つんだ!」


「そりゃあもちろん、親玉に決まってんだろうがぁ! ドラゴン......ギラー!」


 彼が左上空へ剣を切り上げると、バコンと空気が破裂して振動が周囲へ広がった。

そして、破裂から弾かれるように紫の斬撃がクロノス軍団向けて放たれる。


「そんな攻撃、無駄だということが何故わからねんだよゴミが!」


 クロノスもこちらが仕掛けるとほぼ変わらないタイミングでグランドクロスを撃ってきた。

赤く十字に輝く斬撃波が、昼だというのに星空を思わせる不気味な光景だ。

グランドクロス、敵の目の前で斬撃波同士が巨大な爆発を起こすと言われている。

そんな危険な技が、99個も雨のごとく降り注ぐ。

俺はそんな防ぎようもない惨劇に対し、破れかぶれな気持ちのままバスターを砲撃した。

釘のついた敵は見当がついており、本体への狙いは定まっていた。

だが、本体へ向けて攻撃が出来たところで魔法じゃ効かない。

俺は思わず視線を空から切った。


「な、なんだと!? どうなっているんだこれは!」


 狼狽する空の敵の声が耳に入ると、思わず見上げた。

すると、斬撃波なんてどこにもないと思えるほど雲一つない青空が広がっていた。

ただ変わったものがあるとすれば、俺の地上から伸びる光の柱。

バスターだけが本体に向けて放たれ、クロノスは何度も腕を前へ掲げているが魔法が発動する様子はない。


「カリブ、これは一体」


「この半神の剣のおかげだな」


 半身の剣、まさか召喚したバハムートの死体から錬成した!?

ということは、ドラゴンキラーに魔法を無効化する効果が付与されている。

そうか、それなら!

俺は少し腕の軌道を修正した。


「くそ! なんで転移魔法が発動しねぇんだ! ま、まぁいいぜ。この鎧があれば、魔法は全部無効化だ!」


 焦りつつも、攻撃が直撃すると高笑いしだした。

効いてない、もう少し右か。

俺は直撃後もバスターを継続し、徐々に衝突する部分を変化させた。

そして10cm程右に放射を修正した時、空中で爆発が起きる。


「ぐわぁ!!!」


「な、なんで爆発が」


「カリナさんが与えたクロノスの傷、あそこは僅かだけど鱗が裂けていた。

だから、その部分に直撃すればもしかして......とね」


 空中に球体の黒煙がしばらくの間形成され、その中から人の形をした物体が地上へ落下してきた。

黒い煙に包まれたそれは、近寄って見るとクロノスであることがわかる。

右胸はぽっかりと穴が空き、地面が見える。


「きゃあ!」


 俺が死体に気をとられていると、ミリアさんが叫びだした。

もしかして、まだ敵がいるのか?

そう思い振り返ると、彼女はまるで赤子のように泣いていた。


「うぅ、死体が空からたくさん! 怖すぎぃ!」


 ミリアさんはカリナさんとシュエリーさんに抱き着き、身体を震わせていた。

2人はジト目で彼女を見つめ、仕方なさそうに頭を撫でる。

でも確かに、死体の雨って気味が悪いな。


「でもまぁ、終わったぁ!」


 シュエリーさんは両腕を伸ばし、疲れをほぐしていた。

俺はそんな彼女の動きを見ながら、事が落ち着いたことを徐々に受け入れ始めた。

カリブのこととか、イヴァンのこととか、気になる事は山のようにある。

けれど、今はとりあえず腰を下ろそう。

島と広場、動きっぱなしで脳も頭もクタクタだ。


「伏せろシュン!」


 腰を地面に着けようとしたその瞬間。

カリブの怒号が身体を直立させた。

振り向くと、右胸の空いたクロノスが杖を握っている。


「ただで死ぬと思うなよ!」


 杖の先から放たれた毒々しい魔弾は、回避が間に合わない速度でこちらに迫っていた。

俺は思わず目を閉じ、受け入れたわけではないが死を覚悟した。

そして、背中から全身に伝わるであろう痛みを想像して恐怖する。

だが、直撃する衝撃は背中ではなかった。

右肩を誰かが強く押し、俺の身体は弾道から外れる。

目を開けた俺は、誰がそれをしたか目撃した。

呻き声と共にシュエリーさんは顔を両手で覆っていた。

恐らく、魔弾が顔面へ当たったのだろう。

俺はすぐに彼女に駆け寄り、容体を確かめた。

彼女は"熱い"とひたすら連呼し、叫び続ける。


「ハハハ! これで俺の顔を忘れることはなくなったな。死に際までてめえらに攻撃し続けてやっ」


 カリナさんはクロノスが言い終わる前に、ハンマーで頭を潰した。

そして怒りに身を任せた彼女も、割れに帰ったのかこちらへ帰ってくる。


「シュンさん、シュエリーさんは?」


 シュエリーはあまりの衝撃で気を失ったのか、顔を覆う手の力は無くなっていた。

俺たちの掴んだ勝利は、傍から見れば国を守った英雄と呼ばれる物が与えられるかもしれない。

だが、俺らの中ではとても後味の悪い決着となったのは言うまでもない。

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