第87話 カリナ、絶対絶命!

 こいつ、先ほどから攻撃を避けるだけで反撃してこない。

わざと隙を作りカウンターを入れるつもりでいたが、バレているのか?

私は相対しながらも距離を離し、口を開けた。


「戦う気がないなら去れ。私は人質を救えればそれでいい」


 そう言い残し、去ろうとするとクナイが放たれる。

金属音と共にそれを弾き、私は仕方なく攻撃を再開した。

しかしやはり、反撃はない。

そして、今度はバーダの方が距離を離していく。


「人質が目当てなんだろ? こっちだよ~ん」


 そう言い放ち、曲がり角へ姿を消した。

見え透いた罠だが......退けない。

人質を殺されれば、イヴァンたちの悪事を暴く証拠が消えてしまう。

警戒しつつ角を曲がると、罠らしきものはなかった。

奴はそのまま屋敷内へ姿を暗ませる。


◆◇◆◇◆


 足音を頼りにある一室の扉を開いた。

すると、長く奥行きがある部屋へ踏み込むことになった。

ここは、なんだ?

奥を見ると、格子のついた何かが見える。

だんだんとそこへ向かうと、人影のようなものが見えた。


「それ以上来ちゃダメ!」


 格子のそれは、ようやく牢屋であることが把握できた。

格子に鼻をつけ、こちらに訴えかける囚われた誰かの顔がある。

大声の主以外にも、小さく怯えた声がいくつか......。

私は言われた通り、足を止めた。

そして、横にあった瓦礫を目の前に投げ飛ばした。

ガコンという音と共に、瓦礫の破片は何かによって真っ二つにされる。

目を凝らすと、細い糸のようなものが張り巡らされていた。


「あーあ、せっかくのショーが台無しじゃないかぁ」


 バーダの声......上か!?

顎を上げると、空中に立っている奴の姿があった。

浮遊しているわけではない、恐らく糸の上に。

不思議なのはあの糸の能力だ。

瓦礫を切断する切れ味なのに、今あいつは足を乗せている。


「あーこれかい? 形状記憶する魔闘器だよ。炎を加えると鋭く、水を与えると切れ味を無くす優れものさ」


 こいつ、自分の武器の能力をなぜ明かすんだ?

わからない、こいつの意図。


「怖い顔しているけど、内心俺の行動の目的が読めず混乱しているんだろう? いいさ、答え合わせだ」


 そう言い放ち、バーダが指を鳴らすと一斉に両脇に置かれた松明は灯った。

視野が先ほどより明るくなると、目の前で血しぶきが鮮明に映った。

私を先ほど助けてくれた、声を張った誰か。

その人の血だ。


「貴様!」


 バーダはハハハと笑いながら、こちらへ顔を向ける。


「だって俺のショーを邪魔したんだよ? しょうがないよね」


 私は双剣を構え、奴へ飛びかかろうと足先へ魔力をため込んだ。

魔法石の力を下半身に溜めれば、瞬時にあいつの場所まで縮められる。

しかし、その力は徐々に分散させるしかなかった。

攻撃態勢をとった私を見て、彼は再び牢屋の誰かを殺害した。


「な? これが答えだ。お前はもうそこから動くこともできず、ただ俺に惨殺されるのさ」


 くっ、これ以上人質を傷つけられるわけにはいけない。

私は双剣を落とし、両手を上げた。

バーダは「うんうん」と頷き、床に着地した。

そして、懐から丸い塊を取り出してこちらへ投げる。


「なんだこれは?」


「ん? それはしびれ薬さ。安心して? 痛覚と喉の周辺だけは麻痺しないからね。君の悲鳴が聞けなくなるのは、俺だって困る」


 それを口に含み、私は覚悟を決めた。

シュンさん、あなたの言葉がなければ諦めていたかもしれない。

......ありがとう。

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