第69話 カリナとミリア、ゴーレムと戦う
「ミリアさん、声はしますが魔法使いは近くにはいません。つまり、こいつを倒せばこの場から脱出できます」
私(カリナ)は驚くミリアさんにそう言い放ち、双剣を身体に溶け込ませた。
人器一体魔法......カマイタチ。
出し惜しみできるような相手ではない。
倒せなくても、どちらかの足を切れればいい。
「カリナさん、剣が身体の中に入って......そんな魔法もあるんだ。じゃなかった、援護します!」
そういえば、これを人に見せるのは初めてだ。
ミリアさんは少しびっくりした後に、戦闘モードの真剣な顔へと変わる。
いつもの彼女は頼りないが、戦いにおいてはこれほど信頼できる仲間はいない。
「イヴァンの野郎のとこに奴隷、こんな所で見つかるとは思わなかった。ははは、一度戦ってみてぇと思ってんたんだよなぁ!」
ゴーレムは再び天井をぶち壊すほどに腕を振り上げ、こちらに振り落とす。
私はそれを回避し、右足首を切りつける。
だが、切り裂いた瞬間に刃が欠け落ちた。
くそ、なんて硬い身体をしている。
双剣モードではゴーレムの巨体にヒビすら入らないかもしれん。
人器一体魔法は取り込んだ武器の特徴を継承する。
双剣を取り込めば素早く攻撃はできるが、厚みや硬さがある相手には向いていない。
大剣や斧などを取り込むことができれば、ゴーレムの足を打ち砕ける。
しかし、この場にそんなものはない。
「どうしたダークエルフ! 剣が欠けただけで戦意喪失か!」
ゴーレムは再び攻撃を仕掛けてくる。
しまった、エレファントが近い。
このまま避ければ彼が危険、受け止めなければ。
身構えると、ゴーレムの腕は数秒ほど動きを停止させた。
どういうことだ?
なぜ止まっている。
よく観察すると、腕にヒモのようなものが巻き付かれていた。
「カリナさん、今のうちにエレファントさんを!」
彼女の方を向くと、何が起きたかわかった。
壁に何本もの弓矢を突き刺して、そこから石の腕へとヒモが繋がっていたのだ。
私は素早くエレファントを持ち上げ、部屋の外へ連れて行った。
「ミリアさん、あなたも早く!」
「ごめん......カリナさん」
部屋へ戻ると、彼女の身体はゴーレムの拳の中にあった。
くそ、私がもっと早く戻れば。
「安心しろ。俺は人質をとったりなど卑怯はせん。こいつを握り潰した後、きちんとてめぇもあの世に送ってやるよ」
そういうと彼女を握る手はだんだんと強くなっていき、それに応じて苦しそうな声が私の耳に入る。
なにかないのか、私にできることは......。
「ぐはっ......こいつを使え」
背後からそう言葉が聞こえたと同時、扉の横にある壁へ斧が突き刺さる。
これは、エレファントの使っていた斧と同じ奴か?
スペアという物なのだろうか?
いや、今はそんなこと考えている場合ではない。
私は巨大な斧を右腕から作りだした。
これならゴーレムまで......届く!
瓦礫が崩れるような音と共にゴーレムの腕は粉砕した。
「ミリアさん、大丈夫ですか?」
「はい、なんとか」
アザが出来ているが、重傷ではないようだ。
よかった、本当に。
「さぁ、今のうちに逃げましょう」
「そうですね」
私と彼女は、エレファントを抱えて扉の方へ逃げようとした。
しかしその瞬間、足が地面から離れる。
「くそっ、離せ!」
ゴーレムに身体を握り締められていた。
「カリナさん!」
嘘だ!
なんで私とミリアさん、どちらも掴まれているんだ。
片腕は切り落したはずなのに......。
「どうして破壊した腕が再生しているかって? そりゃあ、俺もお前と似たことしているからな」
「まさか、ゴーレムの中にいるのかお前が!」
「ガハハ! 当ったり~。正解者には死をプレゼントしよう」
操作ではなく、ゴーレム自体に奴が化けている。
だからすぐに、腕が復活したというのか?
ダメだ、誰ももう動けない。
「ミリアさん、私のせいでごめんなさい」
せめて彼女だけでも、助けたい。
その願いすら叶わないといのか?
全てを諦めかけたその時、陽気な口笛と共に誰かの靴が入口に見えた。
「ふぃー、カリブ様のしょんべんターイム」
そうテンション高く独り言を発した彼は、私たち3人に気づくことなく用を足しはじめた。
満足しきった顔をし、ブツをしまったカリブはやっと周囲の状況を把握した。
「なんだこれ? お前ら男子トイレで何してんの?」
これは一体......どうすればいいのだ!?
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