第42話 シュエリー、シュンに乗せられる。視点、シュエリーー

  本当にこの男は、勘違いさせる言動ばかりするわね。

両肩を掴んで顔を近づけられたら、キスされると思うでしょうが。

つい顔を構えてしまった私は、水の魔法を使って頭を冷やした。


「ん、んんんんんんんん? んんんんんんんん(で、何か考えがあるんでしょ? いいなさいシュン)」


「え? なんだって? 水の中に顔入れてるから、何喋ってるか聞こえないよシュエリーさん」


 私は魔法を消して、再び一言一句変わらぬ言葉を繰り返す。


「つまり、転移魔法陣にあなたのバスターを放出して敵を一掃するってこと?」


「そう!」


「お~、その発想はありませんでした。その方法ならいけそうですね」


 ミリアさんは手のひらをポンと叩いて見せた。

カリナも同様に期待の目をこちらに向ける。


「はぁ、悪いけどね。確かに光属性の1つではあるけど、相当高度な技術がいるのよこれ。私は読んだだけで発動させたこともないし......無理よ」


 大体、人差し指から中指ほどの転移すら難しいと言われているのに、私なんかには......。


「てっ、シュン! その腹立たしい顔はなに!」


 シュンさんはため息をつき、ヤレヤレという表情でこちらを見て来た。


「だって、天才魔法使いって自分でいってたのに試す気もないなんてねぇ」


「あんた! 私に借金あるの忘れてるの! 払えない額の利息つけてやりましょうか! あぁ!」


 私はまたしてもヒートアップしてしまい、シュンに襲いかかった。

しかし、カリナに止められてしまい爪先が届かない。


「シュエリーさん、ここで全滅したらどっちにしろ借金なんて関係ないじゃないか? よく考えてくれよ」


 くそぉ、いつもなよなよしてるくせにこんな状況だからって強気になったなぁこいつ。


「シュエリーさん、杖を折ろうとしないでください。落ち着いて」


 しまった、危うく大事な道具を破壊するところだったわ。


「ありがとうカリナ。もう大丈夫よ」


 私はカリナの頭を軽く撫で、懐にしまっていた文献を取り出した。

光属性の魔法書のページを開く。


「や、やる気になってくれたんだねシュエリーさん!」


「うるさーい! あんたに利息つけてやるためには、こうするしかないだけよ! 勘違いするな!」


 たくっ、今更煽ったのにビクビクしてこの男。

私のマネして演技してるのバレバレなんだから。

後で絶対仕返ししてやんないと気が収まらないわ。


「話はまとまったようですね。つまるところ、私たち(シュン、カリナ、ミリア)がシュエリーさんが転移魔法を習得するまで、時間稼ぎをすればよい...のですよね?」


 ミリアさんは考えながらつらつらと言葉を並べると、理解したと言わんばかりに最後はサムズアップをみんなに見せた。

それに呼応するように私含め、親指を無言で立てる。


「うわーやったぁ! あってた!」


 彼女はたわわに実った胸をふさふさと跳ね、全身で正解したことを喜んでいた。


「シュン、この子ひょっとしてアホの子?」


「酷いですよーシュエリーさん!」


__1分後__


 3人は私の左右、前方に布陣した。

シュンに乗せられてこんなことになったけど、正直不安が残る。

線を点にする感覚という発動のイメージ説明がまったくもってどういうことかわからないわ。

おまけに、時間稼ぎというけど普通は何日もかけて習得するものなのよ?

守ってくれている3人の中で、まともに戦えるのはミリアさんだけ。

カリナはポーションを飲んでいるとはいえ、完治していないし素手だし。

シュンもあの飛行に使用していた魔闘器だけで、本当に大丈夫なのかしら。

いや、心配してもしょうがないわよね。

私が早く、この魔法を使えるようにならないと。

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