第31話 ゴブリン討伐へ行く3人。視点、カリナ
私は、ゴブリンの巣穴があるという洞窟近くの森に来ている。
これから暗殺を実行していくわけだが、作戦遂行段階を今一度振り返ろう。
数日前、シュンとシュエリーをイヴァン様からのクエスト依頼ということで呼び出した。
クエスト内容はゴブリン退治だ。
勇者パーティーが失敗してしまったクエストだが、最近の2人の功績を考慮して受けてもらいたいとのこと。
というのが餌で、ゴブリンのいる洞窟にトラップを仕掛けてあり、そこで2人を確実に暗殺しろというものだ。
万が一私が失敗しても洞窟の入り口を塞ぎ、ゴブリンたちにより処理する。
つまり、失敗すれば私も命がない。
最初は渋った2人だが、村人冒険者では不可能なBランクの昇格と私を戦力に加えることでなんとか作戦の第1段階はクリアしたといえる。
「カリナさん、ちょっといいかな?」
作戦状況を把握し直している私に突然、シュンは声を掛けてきた。
「パーティーだからってシュエリーさんに言われてさ。俺の魔法って実は...なんだ」
「そ、そうなのですか。わかりました」
これは嬉しい誤算を聞けたな。
シュンのあの魔法は制御することはできず、こちらが地上にいる限りは攻撃できないというわけだ。
ならばやはり、最初に処理すべき相手はシュエリーだな。
あいつさえ処理できれば後はたやすい。
そう、シュエリーさえ殺せればもう情など捨てきれよう。
「あ、カリナさん洞窟入る前にもう一度あれ見せてよ」
「またですか? いいですけど」
クエスト依頼を渋っていた2人だが、私のこの能力を見せたことで判断が迷いだした。
おかげで上手くことが運んでいるわけだが、シュンはこの力に関心があるようだ。
私は気を集中して呼吸を整えた。
胸の水晶が黒く発光を始める。
目をそっと開け、小刀を抜き、目の前の巨木に素早く切りかかる。
私が小刀を鞘に戻し、少し間をおいて巨木はゆっくりと切れ込みに沿い斜めになぎ倒れる。
「か、かっけええ! 胸のあたりがバーって光ってそれからそれから!」
「そ、そうですか? ありがとうございます」
目を輝かせるシュンに私が若干後ずさると、シュエリーがため息をつきながらこちらに向かってきた。
「本当に貴族なのに学がないわねシュン。
ダークエルフは生まれて間もないころに魔法石を胸に埋め込むのよ。
たしか身体能力を大幅に向上させるものらしいわ」
そう、この魔法石は身体能力を高めることができる。
身体全体に魔力を供給するのではなく、一部の部位に割合を偏らせればそこだけを覆わばに強化することもできる。
「へぇ、そんな凄い能力があるのにダークエルフの人ってギルドにいないよね」
「そうね、数年前はいたらしいわよ。
でもある時期から1人も姿を現さなくなったらしいわ。
カリナさんは何か知っているのかしら?」
「私は...知りません」
そう答えると、私でも察しがつくぐらい空気が少し暗くなったのがわかる。
「じゃ、じゃあそろそろゴブリン退治に行きましょうか!」
「お、おう!」
テンションを無理やり上げる2人の後ろを、私は黙って歩いた。
◆◇◆◇◆
洞窟の中に入り、私たちは一体のゴブリンに遭遇した。
まだ作戦遂行地点ではないため、私は様子見をしようと2人の様子を伺う。
「シュン、カリナさん巣穴に辿り着く前にある技を練習したいのだけれど、手伝ってくれないかしら?」
すると、シュエリーは他にゴブリンがいないことを確認してから私とシュンに話かける。
「技ですか?」
「そう、シュンの魔法を活かすために私が考えたのよ。
3人いればできるわ」
上に撃つしか不可能なシュンの攻撃をどう活かすというのだ?
いけない、倒す前に確認しておかなければ失敗する可能性がある。
「シュエリーさん、ゴブリンに脅しとかは効かないと思うよ」
「脅しじゃないわよ。今回は本当にあなたに倒してもらうの」
「俺が戦えるの?」
「そう! カリナさん、あの場所にゴブリンを誘導してもらえないかしら?」
「わかりました」
私はゴブリンの攻撃を避けつつ、シュエリーに指定されたポイントへと移動した。
背後を見ると、魔法陣が地面に展開している。
「カリナさんありがとう。そこから逃げて!」
「はい!」
私は手前で両足に魔力を集中させ、高速でその場から離れた。
ゴブリンは石斧を空に切り、自重により魔法陣に足を踏み込まざるを得なくなった。
「風のマナよ集え! ブラスト」
シュエリーがそう唱えると、魔法陣を展開していた地表から突風が吹き上げる。
ゴブリンの身体は突風に運ばれ、空中へと投げ出された。
「今よシュン! あれやって」
シュンはマナを凝縮し、轟音を響かせ洞窟の岩盤をぶち壊す。
やはりとてつもない威力、跡形もなくゴブリンが消し飛ぶとは。
「やったわねシュン、カリナさん!」
「え、ええ」
表面的に喜んで見せる私と真逆に、シュンは彼女と共に嬉しそうに笑っていた。
もっとも、私の喜びは安堵の気持ちから来ていた。
監視期間が長引き新たな仲間を加えていれば、彼らは本当に脅威となっていたからだ。
しかし、3人いなければこの技はできない。
これ以上知らない2人の戦闘能力は恐らくないと見える。
「お二人とも、あちらの道からが巣穴に近いとギルドの者に聞きました。行きましょう」
「ええ、行きましょう! カリナさん、あなたもありがとね」
「私は大したことしていません」
ありがとう......か。
振り返ると酒場や風呂と、色々こちらも世話になったな。
礼はできないがせめて、痛みも苦しみも感じない一撃で葬ろう。
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