第四章:アクティブ編
追憶(1):世界の色を識らぬ少年
………くすんでいたんだ。
物心ついた時から。
見える景色は、くすんでいた。
「ユウトくん、いっしょにあそばない?」
「……ああ、ゴメン。ちょっと先生によばれてるから」
勿論、嘘だ。
ただ、それが退屈なだけ。
面倒ではなくて、退屈だ。
ハトを追いかけたり。
アリを踏み潰したり。
セミを素手で捕まえたり、その辺の雑草を採って口に含んだり。
―――なぁ……。
それ、楽しいのか?
大人がやっているのはほぼ、見ない。
やるのは子供ばかりで。
子供が卑猥な言葉で喜んでいることからも分かるけど、大人とツボがズレてるんだよな。
だから、なのか。
同じことをしても、まるで面白く感じられなくて。
ズレて、ズレて、ズレて。
何時だって、心は孤立していた。
やっていることが退屈だから。
全く面白く感じられないから。
おかしな奴、不思議な奴。
好意的ではあるし、遊びにも誘うけど、断られたらじゃあいいや……って。
そう思わせるように、仕向けてきた。
これで、嫌な奴――ウザイ奴と思われたら。
多少扱いが面倒になるだろうから。
周りの子供たちから外され、大きく陰を落としている者をたくさん見てきたから、分かる。
アレになるのは。
ちょっと大変だ。
事情にさほど興味もない大人が「面倒くさい」という本音を覆い隠して、表面上だけ慰めるように関わってきて。
さらに面倒な連中が出張ってきて。
最終的には親の心にいらぬ負担をかけて、更に自分が追い込まれる。
だから、自分はそうならないように。
相手を刺激せず。
悪印象を与えず。
程々の結果を出して。
神妙な顔で離脱する。
それが何時もの事。
何をやっていてもそんな感じで、勉強も、運動も、同じにしか思えなかった。
『――ねぇ、優斗君。皆が遊んで欲しいって言ってたわよ?』
―――掃除の邪魔だから部屋から出て行け……だろ?
「○○ちゃん達が、喧嘩の仲裁をして欲しいって」
―――僕が行くのは面倒……だろ?
大人は大人で……これだ。
正直、意味が分からない。
どんな風に育ったら、子供の前でそんな顔が出来る?
全くが隠匿が出来ていない、裏の本音がまるで隠せていない醜い笑顔。
だが、コレはまだマシ。
更に酷いのは、アレだ。
丁度一年前……年中の頃。
陰を落とし、必死に大人へ助けを求めようとした賢明な奴がいて……。
色々と出張ってきて。
解決したかに見えた。
その後、ソイツには日常が訪れたけど。
やはり、腫れ物扱いは免れなくて。
何をしたわけでもないのに、周りから孤立し続けて、孤独になって。
……………。
……………。
偶々他の園児たちが外で遊んでいた時に、聞こえてきた会話は。
「……先生…なんで。なんで、あの時お母さんに言ってくれなかったんですか?」
「○○ちゃんが虐められてること、親御さんにバレたくないと思って―――本当にゴメンね?」
陰を落とした同じ組の園児。
その必死な言葉に答える教師は笑いながら――笑えないレベルの言葉を放って。
最早、呆れさえも感じられず。
俺は、心の底からソイツを軽蔑した。
これなら、
表情が見えない分マシ。
どんな外道でも。
顔が見えないなら、まだ
「―――え? ユウトくん?」
「一緒に遊ぶか?」
「……いいの?」
「ダメな理由がない。だろ?」
「―――うん―――っ!!」
素直で裏も底も見える分。
子供の方が、マシで。
……しかし、遊んでいても俺自身は世話をするかのような心境で。
俺の居場所は何処にある?
俺は、誰に頼ったらいい?
誰か、教えてくれよ。
自立が出来てるからと園も放任で。
母さんが迎えに来るまでは、延長保育を使って入口のベンチに座っているだけ。
他の園児が帰っても。
俺は、ぼーっと座っているだけ。
やっぱり、アレだ。
相手の顔が見えなければ多少はマシだったのかもなぁ。
「――本当に。顔なんて、分からん」
「……そういうお年頃かい? 顔なんて、見れば分かるだろうに」
そう簡単じゃない。
簡単じゃないんだ。
分かってしまうから。
見まいと決め込んでいても、勝手に目に入って来るから。
だから、俺は……。
……………。
……………?
「おぉ、その疲れ切った半眼。トワに似てるね、君」
……いや、マジで。
本当にどういう顔だ? それ。
完全な無表情。
感情の抜け落ちた顔。
それなのに、不快感も怒りも感じない。
得体のしれない恐怖もない。
まるで分からない。
全く心中が伝わってこない。
それより、なにより―――
「………ごめん。お姉さん、だれ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます