第25幕:盛り上がり(阿鼻叫喚)
「―――そっち、行ったよ!!」
「あぁ、任せろ」
直角に曲がる性質。
曲線的に走る性質。
個体によって性格もバラバラで。
確かに、素早さもそうだろうが。
奴らが真に厄介なのは、その危機感知能力と言うべき警戒心の高さにあるだろう。
もし一撃受ければ。
すぐさま遠くへと逃げてしまう。
その為、倒しきるには一撃で片を付けなければ難しいわけだ。
「―――おい、エナって嬢ちゃん」
「……何ですか?」
「警戒すんなって。別に、取って食いはしねェ。――お前さんは、どうやって戦うつもりなんだ?」
近接武器なら、一撃は難しくない。
何せスイカの体力自体低いからな。
だが、遠距離の一撃では。
一ダメージ固定らしくて。
遠距離頼りである恵那は撃破が難しい。
普通ならば、誰もがそう思うのだろう。
―――だが……。
「一度に三矢。全部当てれば倒せます」
「「……えぇ………?」」
「――あぁ……そういう……成程? ユウトと言い、バーニングマンと言い、やっぱり、アイツのお仲間さんかお前等」
誰だって、呆れるだろう。
恵那の言葉は常識外れだ。
そもそも、第一印象で勘違いしがちだが、恵那は普通にアホの子で。
いや……言い過ぎた。
ちょっとかなりポンコツだ。
慣れてきている航や将太ならまだしも。
初対面な盗賊たちは、かなり引いてるみたいだな。
既に【銃士】へ転職している彼女だが。
固有の武器とも言える猟銃なんかは、簡単に手に入るモノではないらしく。
現在は、まだ弓矢使い。
折角だし、いい素材を手に入れたらテツに作ってもらおうという話で。
「―――三発――こうして。当てれば、倒せます」
「「わぉ……」」
「マジか、お前。ウィリアム・テルの生まれ変わりだったり?」
伝説の狩人がTSしてんのはともかく。
本当に、ヤバいよな。
アホという生物にとって、もの知らずな大言壮語は珍しくないが、本当にそれを出来るまでに到る奴は、世にバケモノと呼ばれる。
恵那はその質で。
まさしく、脳筋。
信じ続ければ嘘も真実って典型例だ。
―――で……脳筋と言えば、航。
そう、航だ。
頭は良いだろう。
常識だってある。
だが、ことゲームの中では……単純に仲間と楽しむための枠組みでは、航も脳筋になる。
……なるのは良いが。
絵面がヤバいんだよ。
「―――なぁ、航」
「ん? どうしたの? ――っと」
「ピギャァァ!?」
「………いや。……その……なんだ」
「……分かるぞ、優斗。スイカ割りはラグビーじゃねえ」
航の戦法も単純明快。
【武闘家】へと転職した彼は、スイカへ向かって一直線に突撃し、意味も分からず叫ぶスイカを、ボールのように小脇へ抱え込んでは粉砕している。
動きの自由度が高いからこそ出来る技。
そして、持ち前の分析力があっての技。
「……んっとに。頭の良い脳筋って厄介だよなぁ」
「あぁ、本当にな」
「……………?」
首傾げてんじゃねぇインテリ。
何でそこだけ察しが悪いんだ。
「よく分からないけど、脳筋って言えばあの人たちもだよね?」
「――ニンジャ――っと。だよね、だよねぇ」
「「……………はぁ」」
もう、何もツッコむまい。
普段はボケに回ってる将太が呆れてるくらいだ。
で、七海と航の言うあの人たちとは。
物量頼みの、戦術も何もない攻撃。
ただ大質量で獲物を囲み。
何十にも輪を作る事でスイカを囲い込んでいくPL達の事で。
装備はちぐはぐで。
統一感のない様相。
「――あいつ等、【戦慄奏者】だよな」
「それって、GR5位の?」
「案外、来るもんだな」
「大勢を養うには、それだけ多くのリソースが必要って事だろ」
高ランクギルドにあって、異質な存在だ。
リーダー自身の戦闘力も高いとは聞かず。
団員たちの質も玉石混合。
だが、その最たる特徴は、団員数が数百人にも上るという巨大ギルドだという事。
オルトゥスのギルドシステム。
団員数は最大でも50くらいがベストという考えを覆す連中だ。
「討ち取ったりィィィィ!!」
「「――――ウオォォォォォォ―――――ッッ!!」」
それに、あの士気の高さは。
確かに異常と言えるだろう。
「―――んじゃ、ルミねぇ探しに行かない?」
「はい、それが良いと思います」
七海は勿論の事。
いつの間にか帰ってきていた恵那。
エネルギーが尽きたらしいな。
これ以上は効率も悪いだろう。
「賊さん達、俺たちは探し人に行ってくるけど、アンタ等はどうする?」
「―――んん? まだやってるさ」
「「行きたいッ!!」」
「はいはい、我慢ねぇ」
「某たちも食い扶持が必要です故」
どうやら、上位三名はちゃんと攻略優先らしいな。
そんな連中が、どうして無職と関わったのかは全く分からん。
話だけでは分からないが。
本当に、どういう経緯だ?
ランク一桁ではないだろうが。
それでも、明らかに実力的には決して劣ることがないヤバい連中だぞ。
特に、アイツは。
まさかとは思うが……どうだろうな。
まだ観察していたいとは思うが。
あっちもあっちで、中々に俺たちを分析しようとしていて……何かと理由を付けて傍にいた真の理由は、間違いなくそれだろう。
本当に、抜け目ない連中だ。
「―――優斗、早くしてよ」
「置いて行きますよ」
「あぁ、今行くって」
気になる事は多いが。
優先順位があるから。
俺達は、一度都市へと戻る事になった。
◇
「一部門が終了し、もう間もなく一方の決勝も終了となりますが、ここからが本番でございます」
「「―――わあぁぁぁぁぁぁ―――――っ!!」」
「「――えぇ………?」」
こっちもこっちで士気が高く。
異常な熱気に満たされた野外。
……いや、別に良いんだ。
コンテストをやっているってのは知ってるんだから。
だが、舞台の上に立つ四人。
それぞれ水着を纏った者達。
正確にはその一人に。
水着の筈が、逆に着込むという変則を行っている人に、見覚えがあり過ぎる。
「……なぁ。あれは、幻覚か?」
「「見える見える、ルミエール」」
「――合言葉の打合せなんてしてたっけ?」
マジで、何の掛け声だよ。
あと、観客の数。
最早PLよりもNPCの数が圧倒的と言わざるを得なくて……何百人いる?
「では、最後の紹介と参りましょう! 予選の狭き門を潜り抜け、決勝の舞台へと至った方々です!」
俺達五人が唖然とする中でも。
司会の男――ご意見番ヨハネスさんの言葉で、それは進行していく。
「小粋なジョークに隠れた、最も熱き男! 頭の上も焼け野原! 時々発狂するのは秘密だぁ! ギルド【邪神の呼び声】所属、ツルー!」
「……トゥルーだ、禿げじゃねえ。あと、秘密つってんだろうが」
「ふかふかボディの彼は言う、男は決して外見ではないと! ギルド【満腹全席】の頼れる団長、黄金のピックさん!」
「ピッグじゃないからね。あ、団員募集中です」
「何度も何度も難破船! 諦め知らず、常識知らず! 全てを覆す海賊貴公子! 無所属、ルミエール!」
「常識知らずは誉め言葉かい?」
「そう、こっちの貴公子は殴りたい! ぶちのめしたい! しかし、何故か心の
「ふふッ。痛いのは勘弁してくださいね」
「……有名なギルドの人もいるねぇ」
「呼び声さんなぁ」
「ツルーさん来てたんですね」
完全に現実逃避してやがるな。
「なぁ、航。満腹全席ってなんだっけ?」
「中堅ギルドだけど、PL界隈で有名な料理店を経営しているギルドだね。今の拠点は古代都市で……PLの狩った食材を買い取ってくれるって」
「―――あ……切り身」
前者二人は多くのPLが知っているが。
後者の無所属二人は、下馬評的には不利だろうな。
……………。
……………。
―――いや、不利だろうなって――おい。
四人の後ろには。
大きく透明な筒。
そこに、次々とミカンの様な果物が流れていき。
積み重なる、積み重なる。
アレが得票という事なのだろうが……明らかに、二つに……そして、一つに票が偏っており。
「ヤバない? あの海賊」
「ダブルスコア……ですかね」
「もう
私掠船……政府公認の海賊。
敵国の港や船を襲ったり、略奪したりすることを許された海賊の事だが。
それ程までに。
圧倒的な得票。
―――何やったんだ? ルミねぇは。
「「――――――――」」
「……よもや、これ程とは……!」
「たった今、最後の
四位――満腹全席、ピック
三位――邪神の呼び声、トゥルー
二位――無所属、アール
「恐ろしきかな海賊ッ!! もはや、確定的です! 今大会、男性部門の優勝者は――海賊貴公子ルミエールさんに―――」
「……今、男性部門って言ったかな?」
「「………あ」」
「ねえ、これってさ……?」
そう、おかしいと思ったんだ。
何故、彼女はそっち側へ居るのだろうかと。
ミズコンは二部門制。
まず、女性部門があり。
次に、男性部門らしく。
恐らく何かの手違いだと思うが。
彼女は、何故か後発の男性部門に出場していて。
……いや。
今の恰好じゃあ、間違えても仕方が無いよな。
確認をとったルミねぇは。
頭に手を当てた後、申し訳なさそうに口を開く。
「じゃあ、私は辞退しなきゃ」
「……どういう事です……?」
「だって、私は女だから」
「「え」」
「「――――えええぇぇぇぇぇ――――――ッッ!!?」」
そこからは阿鼻叫喚。
余程観客の印象に残っていたのか……残ってたんだろうな。
ぶっちぎりの優勝だ。
およそ、二位とはダブルスコアで。
「………え? いや、そんな……だって、声が」
「あー、あー。うん。演技のために変えてたんだ」
声を変化させる技術。
ルミねぇの得意技の一つ。
役に入り込んだ彼女の正体を暴くのは不可能に近い。
「いや! そんなバカな筈は――受付時には性別の登録が――よもや……?」
「……聞かれてないね」
やはり、そういうアレ。
何故あの人はあんなにも巻き込まれ体質なのか。
ざわめく会場。
観客は勿論で。
壇上に立っている予選通過者たちも、目を剥いていて。
「……えぇ。では……あれ? 男性部門は二位のアールさんが繰り上げ優勝、という事に……?」
ヨハネスさん、アドリブに強い筈なんだが。
滅茶苦茶動揺してるよな、アレ。
彼の言葉を受けて。
進み出たのは。
金髪の優男だ。
PLにはかなり珍しい容姿の美男子だが……。
どうやらNPCらしいな。
PLの主催イベントとは言え。
役員や観客も、混じっている――というより、過半数がNPCだったりするし、別に出場者でも不思議はないが。
「……………」
「――恵那さん……?」
「どうかした? 恵那」
航の言葉で、恵那が男へ強い関心の視線を注いでいる事に気付く。
見惚れている……違う。
そんな性格でもなし。
ならば―――まさか。
俺たちが戸惑う間にも。
何とか平常心を取り戻したヨハネスさんにより、インタビューが進行し始め。
「では、アール選手。優勝おめでとうございます」
「えぇ、はい。繰り上げの優勝……あくまで二位、という事でしたが……それでも、私へ票を入れて下さった方々へ、深く感謝を致します」
そう言って、深く頭を下げる男。
確かに、サマになる美男子だが。
……………。
……………。
「僭越ながら。私から皆様へ、ささやかなるお礼をしたく」
「―――ほぅ……それは?」
「では、この場をお借りして。私からの送りモノを―――是非、楽しんでください」
―――――――――――――――――――――
【Original Quest】 厄災の前触れ
緊急クエストが【海岸都市】にて発生中です。
【鋼*神***ス】の封印が弱体化中。
終末イベントへ繋がる恐れがあります。
PL、NPC間で協力して
貢献度によって、イベントクエスト【悪玉スイカの乱】の報酬へと使えるポイントを取得できます。
【勝利条件】
・楔の獣の討伐(0/1)
・黒幕の討伐(sub)
【敗北条件】
・海岸都市の壊滅
・海岸都市領主の死亡
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