スナック「夏の名残の薔薇」

ゴオルド

第1話 子猫

小ぢんまりとして、まるでレトロな洋食屋のような煉瓦造りのその店は、いつも夜8時から夜10時半まで営業している。

その名を「スナック 夏の名残の薔薇」という。



駅前の商店街の奥まったところでひっそりと営業しているそのスナックは、夜8時きっかりに、店をぐるりと取り囲むサザンカの生け垣の前に設置された電光看板に電源が入れられる。




女子高生の山元鈴菜は、羽虫が外灯に惹きつけられるように、このスナックの電光看板の光に引き寄せられていった。


いつものように今夜も、高校生の鈴菜には行くあてなんかなかった。むしゃくしゃして家に帰る気にもなれず、ただ何となく明るい場所を避けて歩き、でも完全な暗闇は怖いから少しだけ明るい場所を選ん進んでいたら、このスナックへとたどり着いたのだった。

このあたりに外灯はなく、電光看板だけがぼんやりとあたりを照らしていた。



制服姿の鈴菜は、スナックの入り口に立ち、木製ドアの中央に掛けられた白いドアプレートを読んだ。「男性、お断り」と黒字で印刷してあった。

スナックなのに、男性客なしでやっていけるのだろうかと鈴菜は首をひねった。鈴菜は高校生だが、スナックというのは男性が行く店だということぐらいは知っている。

ドアプレートはほかにもたくさん掛けてあった。「ハッピーな人、お断り」「自慢話、お断り」「ウンチク、お断り」「人の悪口、要相談」等々、たくさんある。


鈴菜は1枚のドアプレートに目をとめた。

「愚痴と弱音、歓迎します」


――ふうん。


未成年お断りのプレートはないことを確認して、鈴菜はスナックの扉を開けた。

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