『ジラ。ゆっくりしている暇はありませんよ』

 ジラが耳につけている銀色のイヤリングから、みちびきの声が聞こえた。どうやらみちびきの移動(ダウンロード)は完了したようだ。

「ごめん。すぐに作業に戻る」

 ジラはそう言うと、ごつごつの大地の上から立ち上がって、UFOの確認作業を再開した。

 UFOはみちびきの言う通りに推進装置が壊れてしまって、使えなくなっていた。しかし、『それ以外はとくに問題がある場所』は確認されなかった。

 その確認を終えると、ジラは一度UFOの中に戻って、自分のピンク色のリックサックを取り出すと、それを背負って、もう一度UFOの外に出た。

 そのジラのリュックサックには事前に用意していた非常用の食料や水、それに地下世界を探索するための特殊な探索用の道具一式が入っていた。

「みちびき。通信は良好?」

『大丈夫です。問題ありません』銀色のイヤリングから、みちびきが答える。

「OK。じゃあ、作戦通りに地下世界の探索を開始する」ジラが言う。

『了解しました』みちびきが答える。

 みちびきの声を聞いてから、ジラは素早く行動を開始した。

 真っ暗な地下のごつごつとした岩の大地の上を、ジラはまるで砂漠に吹く風のような速度で、小さな手持ちライトの明かりだけを頼りに走り抜けていく。

 ジラのUFOが墜落した場所は、どうやら少し小高い丘のようになっている場所のようだった。

 その丘の反対側まで移動すると、そこは切り立った崖のような地形の場所になっていた。

 ジラは崖のふちまで移動して、そこで立ち止まると、その場にしゃがみこんで崖のそこを覗き込んでみた。

 ……ライトの明かりで照らしても、そこはまったく見えない。崖のそこからは、たまに風が吹き上がっている。(とても冷たい風だった)

 その闇は、まるで『地獄の底』にでも通じていそうな闇だった。あるいは、今、ジラがいる場所そのものが、『地獄』なのかもしれなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る