第124話 道は違えど想いは一つ

よしひろとよしひさの話し合いが終り、よしひろが帰った後、よしひさは小声で一言

「言われなくても分かっておるわ」


よしひさの傍らには「うわい」という役員がいました。

彼はよしひさから長年信頼された人物でお酒も強い強者でした。

その一方で、ここ最近のしまづの変化に対応しきれず、疲れていました。


ここ最近の彼の口癖は「早く会社を辞めたい!」です。

彼はよしひさの想いを代弁すべく独り言っぽい話をします。

「このままただ言いなりでは納得できない社員は多いし、面目どころの騒ぎではないですな」


よしひさは重い口を開きます。

「しまづが外聞を重視するのは当たり前のことだ!だが、今そちらにばかり目が行けばしまづはばらばらになる!何事も時がある!合理的だからよいというものではない!!社員にはよく説明してついていけるように歩調を合わすのが上に立つ者の務めである」


うわいはその言葉の後に「だからよしひろは早すぎるのだ!」という言葉が続くと思いつつ、その言葉を飲んだ長兄の気持ちを察したのでした。

たとえ、方法論で争うことがあっても兄弟の想いは一つである。

うわいはそう思いながら沈みゆく夕日を静かに眺めていました。


よしひろと話をしたのはとしひさも同じです。

彼もまた、サンサン商事に気を使う兄、よしひろに不満を表しました。

しかし、としひさにも理由があります。


しまづの中でも特にサンサン商事やひでよしに敵対的な感情を持つ者たちの暴発を防ぐという難事をとしひさは自らの判断で行っていました。

それは、不満を持つ部下の言葉を聞き、共に道を歩み、不利と分かっていてもその道に反対しないというものです。


暴発を防ぐには、ギリギリまで暴発のエネルギーをため込んで爆発させないというギリギリの方法もあります。

つまり、としひさは二人の兄よりも難易度の高い方法で、しまづの分裂を防ごうとしていたのです。


不満に打ち震え、頭に血が上っている者に対して、諭したり止めたりするにも限度があります。

この、すさまじい感情の圧力をとしひさはギリギリで管理していました。


しかし、そのことをとしひさはよしひろには伝えませんでした。

もし、それがバレて、不満を持つ者たちの信頼を失ったら、それはさらなる暴発となってしまづの社内に嵐を呼ぶことは明白です!


としひさは今の時点ではよしひろと協力する素振りさえ見せることが出来ません!

しかし、しまづという一つの組織をバラバラにしない、という点でしまづの役員たちは皆同じ思いを持っていたのでした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る