第12話 目指すは魔法剣士

 翌日は刺繍や礼儀作法に国史などのお勉強をしていた。魔術の勉強は暫く先送りになったので、マドラやダンカン卿と顔を合わせることはなかった。


「姫様の為に新しい魔術の先生が来られるのですね」


 アナベルが楽しそうに話しかけてきた。


 今日は天気が良いので客間から続くベランダでお茶を頂くことにしたので準備をしてくれている。


「ええ、いろいろと術を教えていただけるの。頑張るわ」


 正直これ以上、マドラやダンカン卿の顔を見なくていいのでほっとする。


 アナベルと他の侍女達がいそいそとお茶会の用意をしようと部屋を出入りしていた。今側にいる護衛はバルドだけだった。


「リルア様が魔術を学ぶのですか?」


「そうなのよ。普通の人はもっと早くから学んでいるのにね」


 まだ私が魔力が多いことは周囲には伏せることになっている。まだ封印は全て解いてないと言われているし、最終どのくらいになるのだろう。これで病弱王女からは脱出できるはず。


「リルア様なら光と相性の良い水か風に……。いや、守りを固めるなら土でも」


 そんなことをバルドが思案顔で話す。


「そうねえ。光と水の適正だから、まだ他のは……」


 私は元々光と水があって、水を外さないと火の魔術は使えない。光があるので闇の魔術も使えない。


 もちろん魔法屋で買った初級の水晶を付け替えればそれで使えるようにはなるのだけど適正がないとなかなかレベルが上がらないというデメリットがある。


 水も光もどちらかというと癒し系だから攻撃系の火か風のは欲しいかも。


 土はバルドも言っていたように守護系は補助系なので、それに風を取ると使えない。


「でもいっそ補助系のばかりにしても……」


「そうですね。リルア様が戦闘に参加することはあり得ませんし」


 戦闘に参加しない。確かにフォルティスお兄様のようには出ることは無いだろう。だけど――。もし、この世界が『薔薇伝』を準えているのなら。闇の神との聖戦は起こるはず。


 考えているとお茶の用意が整っていた。


「さあ、姫様のお好きな茶葉が届いたので。それと焼き立てのビスケットです」


 暖かいお茶で生き返った心地だった。私はビスケットに次々に手を伸ばしながら考えていた。


 ――光は闇の神と戦うには必須だから、水の代わりに火と風をセットして、攻撃特化にしようかな。いえそれとも、土のを習得して防御壁を王国全土にして守備型にするか。ファルク様が城に来るまでに考えておかなきゃ。


 気がつけばビスケットは全てお腹の中に消えていた。


「最近のリルア様は食が進むようで安心いたします」


 アナベルがにこりと笑ってまた作りますと喜んでいた。




 数日後にファルク様が登城したらしく、挨拶を兼ねての授業が始まった。相変わらずの美形で銀髪を背中で束ねた姿は本当に氷の彫像のように思える。


「では王女様。早速練習いたしましょう」


「はい。よろしくお願いしますね。ファルク先生」


「先生、……ええと、こほん。では始めます」


 何故かファルク様の頬が少し赤くなっていた。


 ――これでいよいよ私もライトボールとか癒しの水とか使うことができるのね。目指せ魔法剣士。最終決戦までに絶対にカンストしてみせる。


「――と言いたいところですが、王女様は先ず魔力の流れを感じるところから始めなければなりません。普通は命名式の際に神殿で魔力の選別が行われ、幼少期には魔力を無意識に使いこなすことによって慣れるのですが、王女様は魔力を封印されており、そういったことが一切ない状況です。普段から魔力を意識することから始めます」


 普通はそうと聞いた。だから、頑張らないといけない。そして、私はエイリー・グレーネの最強魔法剣士になってみせるの。


「……では、先ず魔力が感知できる範囲や精度を深めて、コントロールをできるようにしましょう。内なる自分の魔力はどうであるか見つめていくのです」


 ――それってなんだか座禅修行みたいなものかしら? 自分の内面と向き合ってとか。魔術ってやっぱり難しそうね。


 そもそもゲームの公式設定ではリルアは初期魔法のみしか取得できなかったはずだからどうなるの?

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