木曜日 その五

自分たちに飛んで来る髪を、三号が全部,手て薙ぎ払った。はらはらと落ちる髪を見て、葉月またすぐ髪を投げた。


三号が目の前の髪を薙ぎ払っている時、葉月が跳び上がり、三号の後ろで闇エネルギーを吸収している一号に向けて髪を投げた。


葉月の算段を見抜いた三号も跳び上がり葉月の足を掴んで、強く地面に叩きつけた。


一号に向かって飛ぶ髪と三号が打ち払った髪は全部、稲妻によって容易くも焼かれてしまった。


三号は葉月の上に圧し掛かって、拳を彼女の身体中に打った。一号が近寄ってくるのをみて、三号は葉月の頭を掴んで身体を持ち上げた。


葉月は髪を抜こうと右手を上げたら、三号はすぐその手を掴んで、捻った。


「あああ!!」


初めてだ。葉月の悲鳴を聞くのが。


身体中を傷だらけにしてまで戦っている葉月の姿はもう見るに耐えなく、今まで安全な場所に隠れた僕はこれ以上じっとしていられなく走りだした。


心の中で葉月が教えた言葉をつぶやきながら。


走りだした僕は瞬くまに三号の手から葉月を奪いとった。葉月を抱いてこのまま逃げれると思ったが、ピラミットの一面にぶつかって倒れてしまった。球から放たれて稲妻も食らってしまった。体がしびれる。


「言い忘れたが、このピラミットは誰でも入れる。しかし、出て行こうとすると、俺らを同意が必要なんだ。もしくは、俺らを全員殺すか、球を全部壊す方法しかない」


一号が丁寧に説明してくれた。


この時、四つの球から「スス」という音がした。


「球がもてる時間ももうわずかみたいだなあ。大人しく俺らに食べられてね、お姉さん」


葉月は何も言わなかった。


仰向けに倒れた僕からは空に浮かんでいる球が見えた。確かに、だんだん薄れていく。薄れていくのは痛みに気を失いつつある僕の意識なのかもしれない。


一番激しく音を出しているのは二号が作った球だ。あまりにも耳障りなのでついそこに視線を向けてしまった。


何秒後、二号が作った球はついに消えてしまった。消えたその場所には白い光を放つ髪だけが残った。二号が作った球が消えると、残りの三つの球は繋いでた線をひいた。一号と三号がこの変化に驚かれ、呆然と立っている時、球を吸収した髪はすばやく三号に向かって飛んでいった。


球の闇エネルギーを吸収して力を増したためか、三号は避けることもできず、正面から髪の攻撃をうけ、すぐ倒れた。三号が作った球もいっそう激しく鳴り出した。死ぬ間際の悲鳴みたいだ。


一号は何もいわず二号を吸ったように、三号も吸収した。そしたら、頭にまた角が増えた。三号を刺した髪は浮かび上がり一号を狙っていたが、稲妻によって焼かれた。


「こんどはお前らの番だ」


一号の殺気がだんだん近づいてきた。


死の危機を感じた僕は逃げようとした。僕らを囲んだピラミットはもういないから、逃げるには絶好のチャンスなんだけど、身体が動かない。


今までずっと黙っていた葉月は口を開いた。


「動ける?」


「無理」


「手は?」


「何をする気なの?」


「私の頭から髪を抜いて空に向けて撒くだけでいい。……できる?」


「うん」


一号は傍に来る前に葉月に頼まれたことをやろうという焦りで、僕は必死になって手を動かし、葉月の頭から髪を抜いた。


ちょうどこの時、一号はもう僕らのすぐ傍に立っていた。


一号は両手を広げたら、掌から稲妻が現れた。一号は稲妻を掴んで振りかざした。


「痛めつけてやる!」


話して、一号は二つの稲妻を葉月の両足に向けて投げた。


「だめ!!


葉月はぐっと堪えていたが、僕は凄まじい叫び声を上げた。


一号は傍で喚いている僕にはかまわずまた両手に稲妻を作り出した。


「早く髪を投げて」


弱弱しい葉月の声に僕は我に帰って、自分のやるべき事を思い出した。


僕は残りの力を振り絞って髪を投げた。


髪は刹那に矢の形となって、一面の壁となり、一号の前を阻んだ。


「無駄な抵抗はもうよしな」


一号は髪の矢で出来た壁に向けて稲妻をぶっ放した。しかし、全部、髪に吸収されてしまった。一号は髪の矢の壁をまわろうとしたが、髪の矢の壁も動いて、いつも一号の前に立ちふさがった。


まわっていけないと知った一号は今度は手で髪の矢を掴み、無理やり突破しようとしている。しかし、失敗に終った。


「時間がもうきりきりか、本当の俺の姿を見せてあげる」


一号は何もしないので、僕は髪の矢の隙間から様子を窺った。一号の頭上にある四つの角が頭の中にだんだん吸い込まれた。角が全部入ると、一号の身体は倍になった。


「おおぉ~!」


一号の雄叫びに、僕は無形の圧力を感じた。息も苦しくなってきた。あまりの怖さに、この情況をくりぬける唯一の頼りの葉月に、つい目が行ってしまった。葉月の両足を突き刺した稲妻はもう消えていた。


葉月はただ目を閉じているだけだ。何を感じているか知らない。でも、分ったことは一つある。夏の地面は以外と冷たい。


一号は大きな手で髪の矢の壁を二三回叩いたら、髪は全部消えてしまった。


「お前らを地獄へ落としてやる!」


一号の声には憎しみがありありと溢れていた。


「地獄に落ちるのはお前だ」


葉月の挑発に一号はかっとなり、拳をとばしてきたけど、この時、どこからか髪が飛んできて一号の口の中に入った。その後に続いてもう二本長い髪が飛んできて、一号の両足を突き刺した。残り三つの球は消えてしまった。


「俺はここで死ぬわけにはいかない!」


一号は葉月に向けて投げた拳を戻し、二つの手をしっかりと握り締めた。最初はなぜ一号が攻撃をやめたかわからなかったけど、次に起こったことで分った。


一本の長い髪が一号の身体を貫いて突きでてきた。一号は力を合わせて、身体の中にあった髪と戦っていたのだ。でも、結局髪に負けてしまった。


髪に身体を貫かれても、一号は諦めず抗っている。一号の悪あがきは効果があったらしく、身体を貫いた髪はだんだん縮んでしまった。


髪がだんだん縮んでいる時、両足を刺した髪が空に浮かび、一号の両目を突き刺した。痛みで一瞬、一号は隙を見せた。その隙に突き込んで三本の髪は、頭を貫いた。


後ろ向けに倒れていく一号を、葉月はすぐ吸い込んだ。


三本の髪は消えたわけではなく、飛んできて、いきなり僕の心臓の部位を刺した。痛みが消えた。


「そのまま休んでいて」


こう言ってから、葉月は気を失った。僕もいつの間にか寝てしまった。


再び目を開けたら、天井が目に入ってきた。よく見ると自分の家に着いた。


「起きた?」


声のするほうに、顔を向けた。


葉月は坐って前を見つめる。見つめる先にはテレビがあって、崩壊した病院のニュースが流れてある。


「うん」


「私はこれから少し休む」


こう言って、僕の部屋に入った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る