木曜日 その三
僕らはデザート売店に入って、空いている窓辺の席に坐った。メニューを見たら、季節限定の品があるので、それを二つ頼んだ。
デザートが運んで来た。葉月はもくもくと食べている。多分気に入っているだろう。
葉月のような綺麗な少女と一緒にデザート売店に来るなんて、まるでデートのようだ。ただそんなことを考えてただけなのに、顔が火照ってしまった。顔の熱を冷ますために、ごくごくとお冷を飲んだ。
「デザート三人前の金で、けちけちいうんじゃねぇよ、姉ちゃん!」
自分のデザートをおいしく食べているその最中に、食欲を妨げる男のいやな声が耳に伝わってきた。声がでかいので、店内は一瞬にして静まり返ってしまった。店内の客はみんな野次馬本性を丸出しにして、カウンターの方を見つめた。はずかしくも、僕もその野次馬の中の一人だ。
それにしても、今時にこんな古臭い脅しがみれるなって、奇跡に思えてきた。
カウンターの前にはちんぴら三人が嫌がらせを言っている。見る人は多くても、助けようとしている人は無しだ。店員たちも遠くに隠れて様子を窺っている。僕の本心としては、助けたいけど、三人相手じゃ、どうせ勝てない。あの三人の誰一人にも勝てそうもないけど。
「助けたい?」
しんとしている店内で、葉月の声はとても大きく聞こえてきたので、僕はびっくりした。椅子から飛び上がろうとしたのを、かろうじて抑えた。
「声が大きいよ」
葉月の問いには答えなかった。自分の情けさに気付いてのか、僕は頭を垂れた。
「私が行く」
僕が止めるよりも早く、葉月はもう三人のちんぴらの傍に着いていたのだ。
「こいつらの勘定はあの人が払う」
葉月は僕を指で指しながら、カウンターの後ろでびくびくしている店員に言った。そして、ちんぴらに向き直った。
「ここで暴れるより、私に付き合ってくれない?遊び相手が必要」
三人のちんぴらは葉月を上から下までスキャンするように見た。葉月の挑戦的な言葉に少し驚いたようだが、すぐすました顔に戻った。
「俺ら三人は甘く見られているようだな。いいだろう、遊んでやる」
ちんぴら一号が言った。名前がわからないので、頭みたいな人を一号と呼ぶことにした。
この時、ちんぴら二号が一号の傍でなにやらささやいた。二号の言葉を聞きながら、一号の口角は上がってしまった。一号は三号に目配せしたら、三号は何か分ったような意味ありげに頷いた。
「じゃ、案内してくれましょうかお姉さん。それに、ご馳走して、ありがとう」
「礼を言う相手ならあちら」
葉月は僕を見たが、何も言わずに先頭に立って店を出た。ちんぴらも後ろをついていった。
葉月の事なら絶対大丈夫だとわかっているけど、いやな胸騒ぎした。僕は料金を払って彼らの後ろを追った。
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