月曜日 その三
今夜の夜空はとても綺麗。
あの得体の知れない物体が消えたと思われる大体の場所まで歩いて行きたかったけど、早く行きたいのでタクシーを呼んだ。
運転手に位置を教えた。ドキドキしながら向かった。
目的地に到着した。周りを見渡してみたけど、何の変哲もなかった。普通の町に普通の人々の
風景が目に映った。あんな事が起こったのに、世界は何一つ変わっていない。
僕はあのものが消えた大体の位置を探してみた。遠い公園からみたので、正確の位置を割り出すには少々困難があった。それでも、ここだ!と思う位置についた。
その位置を中心に回りを探ってみたけど、何も見つからなかった。
やっぱり僕なんかが選ばれた人であるはずがない。そんなに都合よくミラクルな世界を経験できるはずがない。自分がばかばかしく見えてきた。このまま帰ろうと決めた時、ふと、空を見上げた。
あのものは僕が今見上げた空に浮かんでいた。そして、黒い人の影みたいなものを食べて、姿を変えて消えた。
このまま帰ろうとしたその瞬間、誰かに見られた気がした。視線は真上から来た。
どの建物か見回してみた。一番高いデパートがあるのでそこの屋上へ行ってみる事にした。あってるかどうかわからないけど。
上に上がるエレベーターにのると、「間もなく閉店します」と言うアナウンスが流れてきた。早くしないと。
時計を見た。大丈夫、時間ならまだある。確かめにいくだけだから。
エレベーターは屋上まで行かないので、残りは階段で登った。「立ち入り禁止」という札があったけど、無視しでドアを開けた。普段なら鍵がかけられているはずなのに。
屋上に出た。高いところに登ったせいか、風が強い。僕は縁まで歩いていき、周りの建物を確認しようとした。
すると、屋上の上に立っている人影を見つけた。縁に立ったあの人影は背を僕に向けている。うっすらとした街の明かりでぼんやりとしか見えないが、裸のようだ。
僕の気配に気付き人影は振り返った。ちょうどこの時、雲が月を隠したので、人影の様子がいっそう見えにくくなった。
何を話せばいいか分らず、僕は立ち尽くしているばかりだ。沈黙が続けた。
あの人影が先に口を切った。
「今の生活がそんなにつまらない?」
綺麗な声だ。
人影の問いに僕は頷いた。見えるかどうかわからないのだが。
「違う世界が見たい?」
「は…はい」
かろうじて、僕は答えた。声が小さかったので、人影に聞こえたかどうかわからない。
「なら、私があなたを連れて、いくつものつまらなくない昼夜を過ごそう。一度過ごしてしまったら、後悔したり、平淡な生活に戻りたいとねだっても無理だから」
すこし間をおいて人影はまた話しだした。
「覚悟はできた?」
「うん。覚悟できた」
声量からはとても覚悟ができた人の声には聞こえない。声もひどく震えていたし。
またの沈黙。僕を見定めているかな。
「わかった。先ず家に帰ってゆっくり寛いで。当分、今夜のような平和を味わうのが最後かもしれないから。明日の朝、あなたを会いに行く」
言い終えて、あの人影は身体を後ろに倒して屋上から落ちた。僕はすぐ駆け寄って、下を覗いたけど、何も見えなかった。ただ、蟻のような人と車とかが目に映ってきた。
あの人影が言ったとおりに、僕は家に戻った。ちょうどデパートの閉店時間の直前に出た。
それからどうやって家についたか、まったく覚えていない。ただ、あの人影の言葉だけが頭の中で響いている。
家についてからシャワーを浴び、人影の言った通りにベットに入って寝ることにした。今夜が本当に最後の平安を味わえる夜になるかもしれない。
平安な日々がすぎると言われても、明日の朝が楽しみだ。今までの平凡な日々から逃れるから。
朝が早く来るようにと願いながら目を閉じた。でも、興奮でなかなか眠れなかった。
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