2-17.Madonna of the Carnation



「ヴィリスの特徴は知っているであるな?」


「はい。自我は失っており、人間の身を攻撃。焼け爛れたような赤い皮膚を持つ。これがSSGが投稿していたヴィリスの定義ですよね」


「クロノスストレージで『ヴィリス化が進行するにつれて赤い皮膚が広がっていく』って考察をしてる奴も居たな」


「うむ、いずれも間違いではない。詳しくは省くが、その赤い皮膚は体内の脂質とタンパク質が石油に似た物質に変換された結果である」


「まぁ確かに石油ってプランクトンがどうのこうのなってできるとか聞いたことはありますけどね」


「いいや、そのレベルではない。分子のレベルで性質が変化しているである。他の何でもなく、わざわざ石油に」


「何が言いたい?」


「色々と不自然なのであるよ。神の仕業にしては人類にとって都合が良すぎる。……さらに、であるな。話を戻すが、ヴェロッキオの絵画もまた、人類にとって都合の良い情報が書き残されていたである」


「裏面の数字か」


「左様」



JVは右手でタブレットを持ちつつ、左手で絵画を拾い上げた。


レオとヒューガに見せるのはその精密な絵柄ではなく、薄汚れたな木枠の裏面。



「その数字は結局なんなんだ?」


「座標である。上段が緯度、下段が経度」



レオが先程暗闇の中で読み上げたその数字に、再び目を凝らす。


上が30、41、19、79、28。


下が114、28、27、20、4。


赤字は27。



「これは北緯30度41分19秒7928、東経114度28分27秒2004を示している」


「どこなんですか?」


「中国である。長江のとある中洲であった。そこで我が部下が見つけた物こそが……」


「物こそが……?」


「ジェネレーターである」


「はぁ!? ジェネレーターって……その絵は500年前のモンじゃなかったのか……?」


「我輩は不自然であると言ったである。その根拠の一つがこれというわけであるな」



ジェネレーターの現物は見たことがないが、それでも信じられる物ではない。


レオだけでなく無表情なヒューガも目を丸くしていた。


世界の死が起きたのはつい2年前だ。


ヴィリスの登場を見越したとして、SSGのような最先端技術の錐でもなく、ましてや近年の専門家でもなく、500年前の画家が。


……だがここまで浮世離れした話をJVが真面目な語り口で発するのには、メディオを統べるJVが一人の画家に執着する理由と、その絵画を盗む者まで現れる理由の裏付けを感じさせる。



「ヴィリスは死すると溶け、身体の質量に応じた板状のインゴット……我々が言う“モノリス”に変化する性質を持つ。モノリスをジェネレーターに投入することで、先ほど言った“石油のようなもの”を抽出することができるのである」


「500年前のものなんですよね? 一体どういう技術なんですか?」


「分からぬ。分解できぬよう各部品は溶接されていた。そしてそのオーバーテクノロジーのジェネレーターは絵画1枚の座標につき1台。だから現在この世界にあるジェネレーターの数は絵画の枚数に等しく12台という結論に至れるのである」



 

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