　世界の死を経て、世界の全政務機関は機能停止。それらに置き換わるべく各主要国から要人及び知識人を集め、現在世界を掌握している機関こそが、アメリカ・サンディエゴに本拠地を置くSSG（Society for Second Generation・第二世界協会）だ。団体の人数や資産などの規模は公表されていないが、世界の死より僅か３ヶ月で発足、半年以内には生存者の99%以上の認知を得、わずか一年で主要都市のライフラインの確保に成功している。さらには完全なる沈黙状態となった通信衛星に替わり、「ウラヌス3.1号」を500機稼働開始。通信規格「ウラヌス」とともに２つのSNSアプリケーションを全生存者に配信した。

　レア・ド・ライブ……これは旧世界におけるYuoTobe LiveやImstagran Live、及びTwittigman Spaceなどに替わる、ライブ配信専用のアプリだ。テレビやラジオなどの役割も引き継いでおり、イタリアにおいてはメディオのストリートレース生配信と、本レースに招待したヒューガ・エストラーダの個人ライブは特に人気のコンテンツとなっている。

　クロノスストレージ……これは旧世界におけるYuoTobe、Imstagran、Twittingmanをひとまとめにしたものだ。つまりは動画、画像、文章、音声などをデータとして投稿できるアプリ。また非公開で投稿することにより個人用オンラインストレージとしても利用可能で、ログイン不要なレア・ド・ライブとは異なり全生存者がアカウントを保有している。その性質ゆえ、クラウドストレージにおけるフォロワー数はこの世界におけるコンテンツ力の指標だ。

　メディオにおいてのクロノスストレージのフォロワーランキングはヒューガ、ジジ、ワイルドウイング公式、レオの順で、あとはレーサー達がしばらく続く。特にヒューガのフォロワー数はメディオだけでなくヨーロッパ全土でもトップであるために別格だ。ついにあの巨人がレースというコンテンツに足を踏み入れたという印象が強い。

　本レースにおける主役は間違いなくヒューガだが、我々の見極め所はレオである。このレースで４分半を切れば、彼は密かにワイルドウイングの新メンバーとして迎えられることとなる。賞品は車１台、その上でヒューガを招くという本日のメモリアルレースを舞台として、あえて「勝利」ではなく「タイムアタック」を条件とした理由は、いまだ我々のボスしか知らない。

　だがあのボスの言うことだ、俺のような一メカニックが横槍を入れるべき理由はない。レオが加入するにしろ、そうでないにしろ、俺は車とジェネレーターを仕上げ続けるという仕事をこなすだけ。筆に任せて整備に関係のないメモを書き連ねてしまったが、次こそは車に関する日記にせねばならぬとここに誓おう。

　　アレックス・ナトリの整備手帳

　　　vol.01