第18話 レスタノ攻略


 あしたに備えて軽いメニューであるのと、体力がついてきたのもあって夕方になっても疲れておらず、みんなでチェロが今までやってくれていた夕飯づくりを手伝うことになった。

 萌音と俺だけ慣れない動きのなか、和やかに準備をしていく。山で採れる新鮮な山菜たちが主な食材だ。

 そうしてできあがった料理をみんなでいただく。

 おいしい品の数々を味わい、ナズウェンのダンジョンに入る前の最後の団らんの時間を過ごした。

 綿乃がお守りを全員に配り、それからそれぞれの手を重ねあわせて萌音の音頭で気合を入れた。

 寝床に入る時間になり、綿乃が「チェロさんも一緒に寝ようよ」と提案する。

 チェロはとまどっていたがやがて照れつつも受け入れていた。その流れでなぜか彼女たちはたがいの布団をくっつけあい、一緒の毛布にくるまっておだやかに寝息をたてはじめる。

 チェロに代わって俺がランタンの火を消すことになり、全員が寝静まるのを待つ。

 そこにどこからかノパがあらわれて、俺に耳打ちをした。

「歌川町にいってきたよ。レスタノからブラムが出ようとしてる。今のところまだハンターたちが抑えてるみたいだけど、もう持ちそうにない」

 深刻な報告が入り、俺は壁にもたれて腕を組み小さく息をつく。

 ノパが「あした必ず終わらせよう」そう力強く言った。

 このことは、もう寝床についているみんなには言わないでおこうと思った。今は明日に向けて休養をとる時だ。

 火を消す前に、彼女たちの寝顔を見た。ダンジョンの脅威など嘘であるかのように安らかな様子でいる。

 綿乃からもらったお守りを手ににぎりしめ、ふとアルスのことを考える。

 彼女たちのことさえ、どこかで避けてしまっていたのは、もうわかっている。それでも俺は萌音たちのことを信じたいと想う。ダンジョンに立ち向かう姿を、楽しいことをしているときの笑顔を、つらい特訓にも耐えている姿を見て、『アルスが』ではない、俺自身がそう思うんだ。

 この時間、そしてこの人たちのことを、厄災に壊させたくはない。

 コアまでたどりついて見せると、固く決意する。



11


 ついにナズウェンのダンジョン≪レスタノ≫、その下層に挑むときがきた。

 今回はむざむざと撤退(てったい)した前とは違う。だが同時に、失敗も許されない。

 このレスタノのコアを見つけなければ、歌川町もシャーノ国もブラムの脅威にさらされることになる。

 入ってすぐの洞窟のような上層は、大量のブラムと戦っている兵士たちであふれかえっていた。銃器のたぐいを使っていたが相手は人間 でも動物でもなくブラムであるため倒しきれていない。

 重傷を負い、治療を受けている兵の姿もある。

「ひどいわね……」

 それらを見てチェロがつぶやく。

「人間の身体がばい菌を除去しようとするみたいに、ダンジョンは人が多いほどブラムが沸くみたいです。俺たちがいると帰って良くないかもしれない。ここは任せて、コアを探しましょう」

「ええ」

 そのわきを俺たちは通り、下層へのルートをひたすら進む。

 ブラムに様々な姿かたちがあるように、ダンジョンのなかもずっと同じような景色が続いているようでまるで違う。

 人工的な洞窟のように一定の大きさの穴が続いてるわけではなく、極端に狭い通路や極端に広すぎる通路、斜めった道や岩だらけで進みづらい道など様々だ。しかしだからこそ道が覚えやすく迷わないための助けになる。

 やがて赤い水の這う中層エリアへと入る。ブラムは思っていたより少ないが進めば進むほど兵士やハンターの数も減っている。

 俺たちがブラムをなぎ倒しているところに、突然だれかが割り込んできた。

 見覚えのあるイカつい顔の男達、ヘルファイアの面々がなぜかこんなところにいた。

「巫女が参加してるときいて、じっとしてられなくてなぁ!」

 カンデラさんが叫ぶ。他のメンバーたちも連動して、俺たちの盾のように散開し通路への道を開けてくれる。

「やっぱり攻略しにいくと思ったぜ。巫女を守るお前さんの強さは、そう、まるで伝説の……アルスデュラントみてえだったからな」

 カンデラさんは戦い、敵に注意をはらいながら背中越しに言う。

「行くんだろ? コアを獲りに」

「ッ……はい!」

「大したことはできねえが、体力温存くらいには役に立ちたくてな。俺たちが道をこじあけるぜ! いくぞ野郎ども!」

「ありがとうございますカンデラさん、ヘルファイアのみなさん」

 ヨサラが礼を言い、彼らのためにも先を急ぐ。

 中層に入った途端から、気味の悪い姿のブラムが増える。下級とは速さや強さもちがうが、チェロは難なくそれらを消し飛ばしていく。右手に銃、左手にナイフを独特のかまえで持ち、さらに念じたり意識を集中するような予備動作なしで魔法を出せるため敵を圧倒している。

 また陣形の穴を常に埋めて敵の攻撃の芽をはばむなど状況判断も俺たちとは質がちがう。これだけの経験のある人間がついていてくれることが戦力としてだけでなく心から頼もしい。

 いつものように髪をおろした姿ではなく、後ろで一つ結びにしており、雰囲気もまるで訓練のときとは違う。

「すっごいチェロさん、つっよい!」

 戦いながら萌音が興奮気味に叫ぶ。「昔にはほどとおいけど……教官が足引っ張るわけにはいかないでしょ」そう言ってチェロは微笑む。

 主力であるチェロの動きに合わせて、中級ブラムの群れを倒していく。

 手こずることなく進み、やがてあの牛とムカデが合わさった上級ブラムの怪物の部屋に到達した。それすらも一瞬で勝負がつく。チェロが おとりになっている間に、俺が敵の背後からガルナーシャを振り下ろし、ブラムの身体全体を焼き尽くした。

「止まらず行こう!」萌音が勢いよく言い、俺たちも奮(ふる)い立って探索を続けた。

 別の通路と合流し歩いていくと、道が続いておらず先は壁になっていた。しかし近づいてみると、その下に大きな穴がひろがっており、軍が仕掛けたのか網のようなものがはしご代わりに設置されている。

 それを使って降りると、また別の道に出た。

 壁や通路、いたるところがひび割れている。進むほどだんだんとそれら亀裂が増えていた。とうとう下層に到達したということなのだろうか。

 道端にくたびれ傷ついた兵士たちの姿を見つける。彼らを治してやりつついくつかに別れた道のひとつの選んでいくと、ノパがいきなり声をあげる。

「ものすごい魔力の反応がある……コアが近いよ!」

 言われる前からそんな予感はあった。足場に異変が起きている。今までのように固まったものではなく、岩が積まれてできたような荒い床になっていて歩きづらい。しかもその岩は微妙にうごめいており、時々水に流されているかのように位置が変わっている。

 それを踏み分けとうとう、下層と思われる階に到達する。

 下層は、壁の様相が変わっていた。

 空があるけれども、夕暮れのあとのように暗い。目の前の景色をいいあらわすのに近い言葉は草原なのだが、ひび割れた地盤が無重力地帯のように浮きあがっており、不可思議な空間になっている。

 俺たちがその異質な光景に目を奪われていると、突如ヨサラの悲鳴があがる。

 どこからともなくあらわれたフードをかぶった怪しげな男二人がヨサラをとらえていた。

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