極道と砂漠の遺産

「やったあぁぁぁぁぁっ!!」


砂漠で叫ぶ男達。元は奴隷狩りなぞをやっていた連中だが、今では、砂漠のお宝ガチャにすっかり夢中になっている。


見た目は、モヒカンヒャッハーをやっていた頃と、ほぼ変わらない。


「なんだかっ、よく分かんねえけどっ!! 」


「なんかっ、出て来やがったっ!!」


一攫千金を狙ってやって来た者達は、彼等に限らず、何かを発見する度に、やたらにテンションが高い。人生大逆転に、命を賭けてやって来たのだから、当然なのであろうが。


「でもよおっ、なんなんだっ?この鉄の塊っ」


そして、往々にして、掘り出した物が何なのか、掘り出した者達自身には、分からないことが多い。


「なんか、随分と、頑丈みてえだがっ……」


流線型の見事な曲線を描いた、大きな鉄の塊。


ガンッ ガンッ ガンッ


見た事もないようなそれを、男達はみなで、足蹴にしてみる。


「あらっ、あんた達、それ、ミサイルだから、蹴ったりしたら、ダメよっ」


遠くで見ていたアイゼンが注意する。


「そんなに、乱暴に扱ってると、爆発するわよっ」


ほぼ同時に、信管を蹴っ飛ばしていた男。


「えっ?」


発掘されたミサイルは爆発を起こした。


「あーあっ、せっかくのミサイルが、もったいないわねえっ」


こんなことが、もはや、この砂漠の生活では、当たり前の日常となっていた。


-


「ちくしょうっ、ビーストマスターの野郎どもが、サンドウォームを連れて来やがったっ」


砂漠の発掘は、一人ではどうにもならないので、大概は、複数人でチームを組んでいる。


そして、それぞれのチームが、思い思いの方法で、砂漠を下へ下へと掘り進めて行く、掘り方に決まったルールなども、特にない。


「おいおいっ、そんなの使うなんて、反則じゃあねえかっ」


砂漠地帯に生息する、巨大なミミズ、サンドウォームを使役して掘るのも、別に、違反ではない。


「おうっ、なんだ、てめえら、俺達のやり方に文句でもあんのかっ!?」


「あぁっ? 上等じゃねえかっ」


一攫千金狙いの海千山千達が、集まって来るのだから、荒事あらごとも絶えなかったが、その辺りは、前世で極道をやっていた時と、大して変わりはなかった。


「あらっ、あんた達、喧嘩なら、死なない程度にしときなさいよっ、あたしが治してあげられる程度にねっ」


-


この国の王となったリシジンは、日々、発掘された物を、マサに解説してもらう。やはり、見知らぬ技術に興味津々な、ドワーフ工房の親方も、ほぼ毎日、やって来ていた。


「……これは、おそらく、自動車ですね」


マサが知っているのとは、多少、外観の形状が異なっていたが、それは紛れもなく、自動車だった。


「我々の世界でも、移動に、馬車ではなく、こうした乗り物を使っていました」


「これの大きなもので、大勢の人や、大量の荷を運ぶことも出来ます」


「すっ、すごいっ……」


車のボンネットを開けて、構造を解説しはじめるマサ。


「これが、エンジンでして……ガソリンという燃料を動力源として走ります」


「これを、この世界でも、造れるようになるんですかっ?」


「ええっ、近い内に、それも可能でしょうね」


「そりゃあ、俺も、腕が鳴るってもんだっ」


それは、リシジンにとっても、刺激的な毎日で、移ろいやすい少年の夢は、職人から、技術者、エンジニアに、変わったかもしれない。


-


この世界の住人達は、生命エネルギーが極端に弱く、さらには、筋力も五分の一しかない。別世界から来た石動達に比べれば、虚弱体質のようなもの。


過酷な砂漠の環境で、果たして生きて行けるのか、当初マサは、それを危惧していたが、それも単なる杞憂に終わりそうだ。


この世界の住人達にも、過酷な環境に適応するバイタリティは十分にあったし、新しい国に、夢と希望を抱き、むしろ、楽しそうですらあった。


砂漠のお宝ガチャの噂は、あっという間に、人間領に住む者達の間に広がり、他の国からも続々と人が集まって来ている。


貧しい村の男達が、一致団結して、出稼ぎと称してやって来る、最近では、そんなパターンも、非常に多い。


マサが言った通り、新しい国の大開拓時代は、ゴールドラッシュで盛り上がりを見せていた。


-


それからまた、しばらくすると、砂漠の地下で、超古代先史文明の遺跡とも言える、何らかの施設らしき建造物が発見される。


地下に降りて、石動達は、その遺跡の探索を行った。


「ワイは、お化けだけは、苦手なんやけどなぁっ……」


「うわあぁぁぁぁぁっ!!」


人間の侵入を感知して、いきなり、真っ暗な空間に、発せられる、多数の青白い光。


それは、美しい輝きを放ち、その場の者達を、照らし出す。


「あらっ、今でも、まだ、動力源が生きているのかしらっ? それとも、単なるオカルトパワーなのかしらっ?」



そして、突如、宙に映し出される、巨大な女の姿。ここに居る者達、全員が、その女には、見覚えがあった。


「おうっ、これは、あのクソアマかっ?」


それは、転生の間で会った、女神アリエーネに、そっくりな容姿をしている女。


「いえっ、先代のアリエーネでしょう……」


叡智のノートパソコン、その中に存在していた、鍵が掛けられていたフォルダ。それを解析し、ロックを解除して、記録されていたデータを見たマサには、ある程度のことは、分かっていた。これは、答え合わせのようなものだ。


「これは、ここに記録されている映像データ、ホログラムのようなものですかね」


みなの前に、ホログラムの姿で現れた女神は、呼び掛ける。


『人の子よ、ついに、ここへ還って来たのですね……』


『ここに眠る力を、今度こそ、正しく使うことを願います……』


それが、女神からのメッセージだった。



叡智のノートパソコンのコネクトコードを、この施設の装置に繋げ、この遺跡に残されているデータを確認したマサ。


「やはり、そうなんですね……」


そして、自分が把握している、この世界の最後の秘密を、みなに、語って聞かせた。


「それはもう、この世界の、神話のようなものです……それぐらいに、遠い昔のことだったのでしょう」


いにしえの大昔、この世界には、石動達が居た世界よりも、遥かに進んだ技術を持った文明が栄えていた。


「その中心都市があった位置、ちょうど、それが、この砂漠地帯の辺りです」


「しかし、超古代先史文明は、度重なる戦争の挙句、最後には、自らが生み出したエネルギー兵器によって、滅んでしまいます」


「まぁっ、我々の世界で言えば、核戦争を起こして、人類が滅亡したようなもんでしょうか」


「そして、この辺りは、二度と、草木すら生えない、砂漠地帯になった」



神々は怒り、この世界をリセットして、完全に消滅してしまおうとしたが、これに反対したのが、女神アリエーネでもあった。


「それによって、この世界は、リセットされることを免れましたが、他の神々から顰蹙ひんしゅくを買ったアリエーネは、謀殺されてしまいます」


「その後、転生した彼女は、我々が出会ったことのある、今のアリエーネになりました」


「まぁっ、彼女自身もまた、転生者だったということですかね」


「おそらく、今の彼女には、その当時の記憶なんかは、全くないのでしょう」


「ただ、何故か、この世界には、その事が伝承されることとなり、ここで、新たに生まれた人類達は、彼女を絶対的に信仰するようになった」


「それが、この世界での、女神アリエーネ信仰のはじまりでもあります」



「そして、神々は、この世界に再び、知的生命体が出現した際に、この世界のエネルギー資源をすべて、この砂漠の地下に隠しました」


「この世界の新たな住人達が、二度と、同じ過ちを繰り返さないように」


「それが、この世界にまつわる、神の話、いわゆる、神話ですね」



ずっと黙って、マサの話を聞いていた一同。


「あらっ、あたし達、開けちゃいけない、パンドラの箱を、開けちゃったのかしらねえっ」


「神話っ、言うとるんやから、そんなんっ、おとぎ話みたいなもんやろっ? 与太話ちゃうんかっ?」


「まぁっ、あれだな、そんなこと、極道の俺達に託すんじゃねえよっ、ってとこだなっ」


-


「旦那っ!! マサさんっ!!」


そして、地上に上がって来ると、石動とマサを呼ぶ、声がする。


「うんっ? 誰ですかね、あれっ?」


全身真っ黒の、得体の知れない、まるでゾンビのような誰かが、石動とマサのもとへと、走ってやって来た。しかし、ゾンビにしては、あまりにも機敏過ぎる。


「あなた、一体、誰ですかっ?」


「おっ、俺だよっ! ジトウだよっ!」


人狼のジトウは、全身が真っ黒に濡れているため、毛がしおれて、もはや別人にしか見えない。


「そっ、そんなことよりっ……」


「でっ、でっ、でっ、でっ、出たんだっ!! 出たんだよっ!!」


「くっ、黒い水が、ブッ、ブシャーっと!!」


人狼の一族郎党を集めて、総出で、砂漠を掘っていたジトウ。


最初は、みなで、石油が出そうなニオイがするポイントを探すところからはじめた。


みなでポイントを決めると、借金をしてまで、ドワーフ工房で作ってもらった、先端に巨大なキリを付けた鉄の管を、井戸を掘る要領で、ひたすらに、打ち込み続ける。


その結果、どうやら、原油の採掘に、成功したらしい。


「おうっ、あんちゃん、やったじゃねえかっ」


「まだっ、調べてみないと、ハッキリ、石油とは言えませんがっ」


それでも、そのニオイからして、おそらく、石油で間違いないことは、石動とマサにも分かった。


「まぁっ、あれだな、兄ちゃんの鼻には、今まで、散々助けられたが、まさか、石油が埋まってる場所まで、ニオイで当てちまうとはなあっ」


「まぁっ、これで、兄ちゃんも、ついに、石油成金だなっ」


「うおぉぉぉぉぉっ!!」


歓喜のあまり、地に膝を着き、何度も咆哮するジトウ。



「しかし、さっきの話をしたばかりですから、原油にまみれて、黒くなった人狼というのは、……環境破壊で問題になった、油にまみれた鳥みたいで、どうにも……」


「あらぁっ、きちんと洗って、落としたほうがいいわよっ、ちゃんとっ」


「せやなぁ、気をつけんとっ、今、火のそば行ったら、火だるまになるやろなぁっ」


「あれっ? なんかっ、みなさんっ、随分と、テンション低くないすかっ?」


自分達が元居た世界、そこでの環境破壊を目の当たりにして来た者達からすれば、今、この世界で、進もうとしている道が、果たして、本当に正しいのか、自問自答してしまうのも、無理らしからぬこと。


この世界の文明レベルは、確かに低いが、だが、それ故に、この世界の自然は、とても美しい。


文明を発達させれば、その美しさが、多かれ少なかれ、壊されて行くのは間違いない。それを、みんな分かっている。



「まぁっ、気にすんなって」


そんな中でも、石動だけは、ブレることはない。


「まぁっ、あれだな、どうせ、人間、進んで行くしかねえんだっ」


「先に進めねえなんてっ、死んでるも同然、生きてねえのと変わらねえっ」


むしろ、神々に対して、反骨心すら抱いている。


「まぁっ、神々なんて名乗ってる野郎どもに、管理されて、進むことを止められた世界なんざっ、冗談じゃねえっ、真っ平ごめんだからなっ」

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