過保護なギルドメンバーは故に彼を追放する
佐橋博打@ハーレムばかり書く奴🥰
第1話 違和感だらけの追放劇
「グラジオラス! アンタは今日を以って追放よ!!」
目つきの鋭い金髪の少女、イオーネは告げた。
どこか誇らしげであり、同時に不安げな表情。
その僅かな動揺は彼女のチャームポイントであるサイドテールの動きによく表れている
「どういうこと?」
一方、彼女に追放を言い渡された当人、グラジオラスはソファーにもたれかかりお菓子もぐもぐと食べながら気の抜けた表情をしていた。
そのあまりにもリラックスしすぎてる態度に、彼女は吠える。
「ちょっと! 人が追放するって言ってんだから、もうちょっと深刻な顔ぐらいしなさいよ!」
ムッとするイオーネをよそに、グラジオラスはお菓子をお代わりしながら質問をする。
「いやだから、追放って何なんだ? あ、もしかしてギルドハウスの家賃でも滞納してたのか」
「違うわよ! その辺はしっかり管理してるから。……あぁもう! そうじゃなくて! アンタだけ追放だって言ってんのよ」
彼女はグラジオラスの鼻を指し、頬を膨らませる。
「そうなの?」
彼は今一つ彼女の言葉に信憑性を感じなかったのか、少し離れた場所でこちらを伺っていた二人に確認を取る。
「らしいよ~たぶん」
眠そうな顔をした少女は、着ているパジャマのパーカーを深く被りながら彼の顔をちらちらと見て答えた。
「ごめんねグラくん……ちょっとの辛抱だからね」
彼らより少し年上のような雰囲気を醸し出している修道服を着た女性は、おっとりとした口調で何故か身を案じていた。
二人の反応を受け、グラジオラスもさすがに事態を受け止めたのか、表情が引き締まった。
「そうなのか……ちなみに追放理由って何なの?」
「え? 理由? ……えーっと」
イオーネはどうしてか言葉に詰まり、控えている二人に目配せをする。
二人も互いに顔を見合わせて困った表情を浮かべていたが、ぐうたらそうな少女が更にフードを深く被って答え始めた。
「あーあれだよ。最近グラグラってスランプだったでしょー? だからだって」
スランプ。
その言葉を聞いた瞬間、グラジオラスは小さく頷いた。
彼には思い当たる節があったのだろう。
「確かにそうだな。わかった、出ていくよ」
「ちょ、ちょっと! そんな……」
席を立ち場を去ろうとする彼を、どういうわけかイオーネが止めようとする。
扉に手をかける寸前で彼は足を止め、振り返った。
「そうだ、出ていく前に聞かせてくれ」
「な、何よ」
イオーネは力なく答える。
「俺の後釜、つまりメインアタッカーはもう決まってるのか?」
彼のギルドでの担当はメインアタッカーだった。
つまり、彼が抜けるということはそこに穴が空くということである。
メインアタッカー無しでのギルド、延いてはパーティは成立しえない。
「そうね、一応当てがあるわ。後輩の女の子に頼もうと思ってるから」
イオーネはよくぞ聞いてくれました、と言わんばかりの顔で答えた。
「女の子か。タンク役も兼ねてるからできれば屈強な男性の方が――」
「嫌よ! ぜーったいに嫌!」
彼の提案に対し、イオーネは身を乗り出しながらこれ以上ないほどの拒絶を見せた。
「どうして?」
元より前衛であるメインアタッカーがグラジオラス一人、残りの女性陣三人の後衛で構成された少々アンバランスなパーティだ。
前衛を女性が担うことももちろん可能ではあるが、体格の問題は無視できない。
だからこそグラジオラスはそう提案したのだ。
だが、彼女は眉間のしわを寄せ若干早口で反論する。
「あったり前でしょ? アンタ以外の男なんて全部アンタの完全下位互換じゃない。絶対に要らない。それでも男じゃないとダメって言うなら欠員にするだけよ」
思いもよらない言葉に、グラジオラスはどう反応すべきかわからずに口を開いたまま苦笑いをする。
イオーネの性格は一見すると正直でないように思えるが、実のところは正直すぎる面があるのだ。
「ふふ、イオちゃん……心の声が出すぎてるわ」
修道服の女性はにこにこと笑う。
ようやく自身の発言の正直さに気が付いたのか、イオーネは耳まで真っ赤にした。
「う、うるさいわねぇ!! と、とにかく! 取り敢えずはその後輩に頼むから、アンタは大人しく追放されてなさい!」
指でグラジオラスの胸をちょんちょんっと押す。
それも追放という言葉からはかけ離れた優しいものであった。
「大丈夫なのか……まぁいいや、それじゃあ」
彼は再び扉に手をかけた。
「あ、ちょっと待ちなさい! アンタ追放された後にどこ行くつもりなの? 見当がもうついてんなら場所もついでに教えなさいよ」
「え……なんで?」
彼女はまたもや奇怪な質問をする。
追放をすることがそのまま縁を切ることに直結するかと言えばそうでないにしろ、その後の所在を聞く必要などまずないはずである。
それなのにイオーネは当たり前のことのように、行先について聞いてきたのだ。
「いいから!」
グイっと詰め寄られて、彼はしぶしぶこの後の予定について話す。
「あぁ、そうだなぁ……うーん。ファイル川を渡ってゼロベース山脈を超えてから……アップシーン島にでも行こうかな。あそこなら猛獣も多いし鍛えられるはず」
つまりこの地から随分と遠くに行くことを伝えたのだ。
もっとも、そこに具体性はなく思い付きがほとんどである。
そんな長距離を進んだところで、その先に何かあるわけでもないのだから。
だが、彼のどう考えても適当すぎる答えに対し、イオーネは焦りを見せた。
「いやいや待ちなさい。何もそんなに遠くに行かなくてもいいんじゃない? 流石に遠すぎよ」
グラジオラスの服を引っ張る。
そして、追放する側にしてはおかしなことを言うのはイオーネだけではなかった。
「そうねぇ……私も同意見だわぁ。うーん、森の教会とかいいんじゃないかしら」
修道服の女性もイオーネの意見に同意している。
しかし、これもまたおかしのことであった。
「いや、森の教会ってすぐそこじゃないですか。歩いて三分もしないですよ。……ていうか、その教会ってティーガンさんの実家でしょ……」
「あら……あはは、そうだったわねぇ」
装いから分かるように、ティーガンは近所にある教会の家の娘である。
おっとりとしていて慈悲深い女性だが少々……いや、かなり過保護すぎる点がある。
今回もグラジオラスが追放されると言っているのに、自然に自らの家に
ティーガンのうっかり発言に、グラジオラスも頬が緩む。
「まぁ適当にほっつき歩いてるから」
服を引っ張ったままのイオーネの手を優しく外す。
彼女は不服そうではあったが、それ以上突っかかることはなかった。
そうしていると、奥でずっと様子を伺っていたフードの女の子がトボトボと歩み寄ってきた。
「ねぇねぇグラグラ、これ持ってて」
「何だこれ……」
渡されたのは札であった。
裏を返すと、そこには見覚えのあるマークが描かれている。
「これって……モチちゃんの魔法陣か?」
モチはフードを少し上げ、頷いた。
「ヤバそうだなって思ったら使って。あぁ、もちろんグラグラはどこ行っても大丈夫そうだから違うよ、つまり――」
「なるほどな、わかった」
モチの意図を察したグラジオラスは、札を受け取り彼女のフードをまた元通りに被せた。
そして彼はギルドの面々を見渡す。
「じゃあみんな、世話になった」
彼の言葉は清々しいものであったが、それぞれの表情は曇りきっていた。
まるで追放される側とする側が逆であるかのような異様な光景だ。
あまりにもどんよりした空気に、グラジオラスはなんとかしようと軽口を叩いた。
「なんだ、二度と帰ってくんなとか言わないのか」
「うっさいわよ、ほら行った行った!」
彼の言葉に乗り、いつもの調子でイオーネは反発する。
それを見て安心したのか、グラジオラスは手を小さく振りながらギルドを去った。
グラジオラスのいなくなったギルドに残された三人。
皆、それぞれがまるで上の空である。
「あーあ、行っちゃった」
モチはそう言いながら、彼の残していったお菓子を食べる。
その視線の先にはソファーで魂が抜けたようにぐったりとしているイオーネがいた。
「はぁぁああ……」
途轍もなく大きなため息を吐く。
目をぎゅっと閉じたり開いたりしながら、彼女は葛藤しているようであった。
「大丈夫よイオちゃん、グラくんならきっと」
ティーガンはイオーネに寄り添い、励ました。
それでも尚、彼女はグラジオラスのことが気になるのか、不安の色が消えることはなかった。
「本当かしら……」
そう言い、彼女は塞ぎこんでしまった。
このギルドで過保護なのはティーガンだけではない。
戦場ではどちらかというと守られている側の後衛三人組は、それ以外の場面ではグラジオラスを過保護に守っていたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます