序章3

 6月1日、店の外では世紀末ヘアーの人物達が1人の人物に対して方位をしていた。部外者が見れば、集団暴行の光景に見えなくもない。しかし、これがフィギュアハンターだと知ると、誰一人として警察に通報しようとはしなかったという。

 これに関しては理由がある。彼らのバトルを警察の介入で中断させた場合、多額の損害を支払う可能性も浮上するからだ。これは、ネット上のテンプレで書かれている事なので、信用出来る物かどうかは怪しいレベルである。

「私が誰か、知っていて挑んだのかしら?」

 身長は165近辺、服装は改造セーラー服にも見えるのだが――厳密には違うかもしれない。バスト90に近い胸だが、揺れるような気配もない。それ以外で特徴的なのは、背中のバックパック、SFチックな耳飾りの付いたバイザー、両足に装備された特殊なデザインのブーツなど……。まるで、その装備は一時期に流行した戦艦擬人化ゲームのコスプレにも見える。

 それでも知っている人間からすると、細かい部分でカラーリングの違いがあったり、露出度が低い等の違いがあるのだろう。そう言う風に見えるのはARゲーム的な演出と言う訳ではなく、インナースーツの上に着こんでいるコスプレらしい。ただし、武器類はCGに見えなくもない。草加市がARゲーム等で有名とはいえ、実際の銃火器や刀剣を持ち込めば、銃刀法違反で捕まるのは当然だろうか。

「あの装備――うかつだったか」

「初期フィギュアハンターやハンティング勢力とは違った意味で、危険な人物だ」

「超有名アイドルファンキラーの――」

 周囲の人物も彼女の正体に気付き始めたが、その頃には右手に構えた2連装砲型のビームライフルの的となった。



 5分後、最初に彼女を取り囲んでいた世紀末ヘアーのかませ犬は一掃された。その後、警察に御用となることなく逃走したが――特に気にはしていない。

「最近の超有名アイドルファンは、フィギュアの転売利益でCDを購入する時代に突入――というよりも、再びブームになっているのが正しいか」

 彼女の方は若干呆れかえっている。ビームライフルの方は、気が付くとCGが消えるような演出で消滅しており、本当に異能力なのかも判断できない。しばらくすると、バイザーにインフォメーションメッセージが表示され、乱入者の出現が予告されていた。

「仕方がないわね――!」

 次の瞬間、相手が接近する前に彼女は酸素魚雷を放つ。しかし、魚雷は道路に潜ったのである。ネットで動画配信されていたら、ツッコミは間違いない。その魚雷はターゲットにピンポイントで到達し、相手の目の前に姿を見せたと同時に爆発のエフェクトを発生、そのまま命中したハンターは脱落となった。

 ハンターに関しては、先ほどの世紀末ヘアーな人物と同じく、そのまま逃走した。逃げるが勝ちと言う訳ではなく、単純に力量を間違えたのだろう。

「よりによって、島風だったとは――」

 彼女を狙おうとしていた別のハンターは、遠くからARバイザーの望遠機能で姿を確認、そこから表示されたデータを見て戦術的撤退を決める。彼女の名前は島風(しまかぜ)あいか、その手の業界では有名なコスプレイヤーである。ハンターとしては初期ハンター程ではないのだが、相当の実力者――と書かれていた。

 あくまでも表示されたデータは自己申告された物ではなく、まとめサイト等のコピペ――信用に値するデータなのかは別話だが。



 島風のバトルが展開されていたのと同じタイミング、店の外に出たグラーフと世紀末ヘアーの人物は駐車場よりも離れた空き地へと移動する。

「データなし? 新米ハンターだと言うのか?」

 世紀末ヘアーの人物がバイザーのデータベースを調べてもグラーフのデータは出てこない。

「当たり前じゃないのか? まだ、ゲームにもエントリーしていないようなプレイヤーのデータが登録されていないのは」

 グラーフの冷静な一言も、至極当然の反応である。新人プレイヤーは、どういった分析をしたとしても新人でしかないのは当たり前だ。これが漫画やWeb小説等だとチート能力を持っていたり、圧倒的なパワーを持っていそうという事を見た目や口調で判断できるかもしれないが、これは現実である。

「どうせはったりだ! サブカードやアカウントを初期化して過去のデータを隠しているに決まっている」

 世紀末ヘアーの人物は、まるで今までの対応と全く違う様な表情を見せており、メッキがはがれたような印象をグラーフに感じさせた。

「それに、お前はアーマーも何も装備していない! ガジェットの武器――それすらも使わないような異能力者なはずもない!」

 既に話もかみ合わない。言葉のドッヂボールと言われても文句の言えないような状況になっている。

「これは、一体――何が、起こって――」

 グラーフが店内で渡されたガジェットを構えると、彼の周囲をCG演出と思われるような光が包み込んだ。そして、数秒経過しないうちに真っ白の重装甲と言えるようなアーマーが装着された。

 メット部分も無改造バイザーに装甲が追加され、マスクが付けられている印象――それに加え、バックパックとして収納されているシールドもウイングと言うよりは飛行甲板の様なデザインである。

「そのアーマーは一体、どういう事だ!?」

 世紀末ヘアーの人物は、グラーフを初心者プレイヤーと油断していた。実際、グラーフはフィギュアハンターのルールを全く知らない素人だ。ネット上でのテンプレも知らなければ、これがフィギュアハンターである事も実感がないだろう。

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