369話 毒蛇団

 ギルドマスターにエルカ迷宮討伐の件を報告している。


「迷宮討伐は以前から狙っていたことだ。さすがにこれほど早く達成したのは予定外だがな。早いか遅いかの違いだけだ」


 俺はそう言う。

 既に十分な成果は上げているし、過剰に功を誇るつもりもない。


「そう言ってくれるとありがたい。財宝の隠し部屋を見つけたとは聞いているが、それとは別に報酬も用意している。期待していてくれ」


「ありがとう。恩に着るよ」


「なぁに。礼を言うのはこっちの方だよ。コウタたちがいなければ、いつまで攻略が遅れていたかわからない。スタンピードの兆候は出ていなかったが、エルカディア侯爵領内には他にも迷宮がある。心配の芽は事前に潰しておくに越したことがないからな」


「ふむ。そういうものか。それでだ。俺たちが次に取り組む仕事の話なんだが……」


 俺は話を切り替える。


「この町に巣食う闇ギルドを壊滅させる話だ。陛下直々の指令だし、最優先で取り組まねばならん」


「その通りだ。当ギルドとしても全面的に協力する。闇ギルドにはさんざん煮え湯を飲ませられているからな……。特に『毒蛇団』だ。頭目の『毒霧』のアルヴィンは、Aランクに匹敵する力を持つ。今までは迂闊に手を出せなかった」


 ギルドマスターは苦虫を噛みつぶすような表情になる。


「毒蛇団か。そいつらには、俺も借りがある」


「そうだったな。そっちの嬢ちゃんは、あいつらの被害にあったのだったか。当ギルドも警戒し、掃討作戦を練ってはいたのだがな。奴らの活動は法的にグレーゾーンギリギリのものばかりで、なかなか尻尾を掴めなかったのだ」


 ギルドマスターがエメラダに視線を向け、そう言う。

 エメラダは将来有望な調合士としてそれなりに有名だった。

 だが、店舗経営の才能はあまりなかった。

 そこを毒蛇団に付け込まれ、法外な利息を請求されて奴隷に堕とされたのだ。


「……えっと。はい。主様に救っていただけなければ、今ごろどうなっていたことか……」


 エメラダは少し困った顔をしつつ、小さく首肯してそう答える。


「冒険者ギルドの力が足りず、怖い思いをさせてしまったな。俺が言えた義理じゃないかもしれんが、今は幸せそうだしよかったよ」


「はい! とても幸せな毎日です!」


 エメラダが満面の笑みを浮かべてそう言い切る。

 奴隷身分とはいえ、俺は彼女を虐げるつもりはない。


 俺は将来有望な冒険者だ。

 現時点での戦闘能力だけならまだ上はいるだろうが、将来性だけを見るなら俺以上の者はなかなかいない。

 何と言っても、俺には各種のチートスキルがあるからな。


 その効力の一部は、パーティメンバーにも適応される。

 ただの一般市民として生きるよりも、俺の奴隷として生きた方が幸せとすら言えるだろう。


「エメラダは俺の大切な仲間だよ。そして、仲間と言えばだが……」


 俺はそう言って、さらに話を切り出していくのだった。

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