349話 財宝部屋
「どうした? グレイス」
俺はみんなを連れて、コアルームの奥にいるグレイスの元に向かう。
「この部屋を見てくれよ」
彼女は部屋の奥にある扉を指差した。
そこには、今まで見てきたどの部屋にもないような重厚な作りの扉があった。
「隠し部屋かな?」
「多分そうですにゃ。熟成した迷宮のコアルームには、財宝部屋があるって聞いたことがありますにゃ」
セリアが俺の疑問に答えてくれる。
さすが、冒険者ギルドの受付嬢として働いているだけはある。
こういった知識もあるらしい。
俺のMSCにおける知識とも相違ない。
迷宮のコアルームには、宝物が貯蔵された部屋が隠されていることがあるのだ。
「これはラッキーだな。まあ、それだけ厄介な迷宮だったということでもあるが……」
財宝部屋があるかどうかは、その迷宮の歴史の長さや攻略具合などに左右される。
というのも、この部屋に蓄えられているのは、主に迷宮内で死亡した冒険者たちが残した金品や装備だからだ。
迷宮は、次なる獲物をおびき寄せるために、それらの財宝を各階層の宝箱に入れる。
だが、あまりにも豪勢な財宝を入れると、たくさんの冒険者が来てしまって迷宮自体が討伐されてしまうリスクが高まる。
そのあたりのバランス感覚もしっかり持っているため、貯蔵している財宝全てを宝箱に入れるわけではない。
「今での犠牲者たちが残したものが納められているんだろうね」
「これも迷宮の定めですわ。わたくしたちで回収させていただきましょう」
ユヅキとローズがそう言う。
確かにその通りだ。
せっかく見つけたのだし、有効活用しないとな。
「じゃあ、早速開けてみようか」
俺はそう言って、その重い扉に手をかける。
ギィッという音とともに、ゆっくりと扉が開いた。
中からは、眩い光が漏れ出してくる。
「うわぁ……」
その光景を見たシルヴィが感嘆の声を上げた。
俺も思わず息を飲む。
そこは金銀財宝が山のように積まれた空間になっていた。
「へへっ。こりゃ大金持ちになれるな」
「お金だけじゃないのです! ミスリル鉱石まであるのです」
「……これはすごい……」
リン、ミナ、ティータが感嘆の声を上げる。
「……ごくり」
「す、すごいですにゃ。まさかこれほどとは……」
エメラダとセリアも声を漏らす。
「ご主人様。これがあれば、みんなで贅沢な暮らしができますね」
シルヴィが嬉しそうにそう言った。
彼女の物欲はさほど強くない。
だが、それはそれとして、『悠久の風』のみんなで平和に楽しく暮らしていきたいという思いは持ってくれているようだ。
「そうだな。それに、さらなる成り上がりも狙えそうだ」
俺はすでにBランク冒険者であり、ローズの実家であるアイゼンシュタイン子爵家へ婿入りする予定がある。
一般的に言えば一流と言ってもいいだろう。
だが、世界滅亡の危機に立ち向かうためには、まだまだ物足りない。
金銀財宝を資金源とし、ミスリルなどの鉱石でいい装備を作ってもらい、さらに上を目指していきたいところだ。
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