321話 それぞれの役割
エルカ迷宮の中ボス部屋で、骸骨を発見した。
おそらくは俺たちの前に強制転移のトラップに掛かった犠牲者だろう。
俺たちも気を抜けばああなってしまう可能性がある。
気を引き締め直して探索を進め、その日の夜になった。
迷宮に籠もっている今、昼夜の判断はつかないのだが、おおよその体内時計である程度は分かる。
「さて……。今日の探索も、誰一人欠けることなく終えることができたな」
「はい。みなさんご無事で何よりですわ」
「本当によかったのです」
ローズとミナがそう同意する。
「今後もみんな元気なままで帰還したいね」
「へへっ。そのためにも、あたいがうまい料理をつくってやるよ!」
ユヅキの言葉を受け、リンが張り切る。
俺たち『悠久の風』の料理当番は、もちろんリンが務めている。
彼女のファーストジョブは『料理名人』。
ちゃんとした厨房で調理した彼女の料理は絶品だが、今回のように迷宮の攻略中という限られた環境でも、その腕を振るってくれる。
「……えっと。あたしも手伝いますね」
「もちろん俺もだぜ! リンの姉御にばかり負担は掛けさせられねえからな!」
エメラダとグレイスが手伝いを申し出てくれた。
迷宮の深部に強制転移させられてから早くも二週間ほどが経過しているが、みんなまだまだ元気だ。
体力的にも精神的にも余裕がある。
これは、『悠久の風』のみんながそれぞれ高レベルのジョブを持っているからだ。
夜は『結界魔法使い』のティータのおかげでぐっすり眠れるし、食事は『料理名人』のリンのおかげでおいしいものが用意されている。
『英雄』の俺、『氷魔導師』のシルヴィ、『聖獣剣士』のユヅキあたりを筆頭に戦力は万全であり、魔物相手に苦戦することはほぼない。
多少のケガくらいは負うことがあるが、『治療魔法使い』のローズや『調合士』のエメラダの活躍によりすぐに回復できる。
武器のメンテナンスは『聖鍛冶師』のミナに任せればバッチリだ。
『盗賊』のジョブを持つグレイスのおかげで、トラップへの対処もそれなりにできている。
みんなそれぞれ自分にできることをしっかりとやっているのだ。
このまま探索を続けていれば、何も問題はない。
……と言いたいところだが。
「へへっ。コウタっち、料理のための水を出してくれよ」
「……ここで残念な知らせだ。実は、水のストックに余裕がなくなってきている」
俺はリンにそう答えた。
ストレージには各種の必要物資を大量に入れていた。
飲料水もその一つなのだが、すでに底が見え始めている。
「……それってマズイんじゃ? 飲水がなくなれば、あっという間に動けなくなっちゃうよ……?」
ティータが心配の声を上げる。
人体の活動において、休息や食事は大切だ。
しかし、飲料水はそれ以上に重要だと言えるかもしれない。
「うむ。飲むための水としては、まだ一週間分以上はある。だが、調理のために気軽に使うことは難しくなる。それに、あと一週間で地上に戻れるかも不透明だ」
俺はそう説明した。
「なるほど……。ひょっとして、その状況を打破するための策が、今日の探索中にご主人様が仰っていた『とあるジョブ』の習得ということでしょうか?」
「その通りだよ」
俺はシルヴィの問いに首肯してみせた。
さて、無事に取得できるかどうか……。
ここが頑張りどころだ。
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