286話 あたしには重すぎるかなって……

 木刀で試し切りをさせてもらった。

 闘気を纏えば、木刀とはいえ高い性能を発揮する。


「すごいな、これは。本当に切れたよ。なかなかの切れ味だ!」


「へへへ。驚いたかい? アタシの自信作だよ。ちなみに、こっちはミナの作った奴だけどな」


 ミルキーは別の木箱を開ける。

 その中には、同じような形状の木刀が入っていた。


「ミナの作る木製品は、どれも一級品だからね。こいつも、そこらの金属製の剣よりずっと切れるはずだぜ」


「ほう。確かに、こっちも素晴らしい出来栄えだな」


 俺は2つの木刀を手に持ち、軽く振る。

 ミルキーのもミナのも、どちらも非常に扱いやすい。


「どうだい、コウタ坊。気に入ったなら、両方持っていってくれても構わないぜ」


「そうだなぁ……」


 俺は少し考え込む。

 そのとき、何かを言いたげなエメラダの顔が目に入った。


「どうした?」


「……えっと。あたしに買っていただけるという武器は……」


 彼女がおずおずと口を開く。


「ああ、そうか。悪い。エメラダの武器の話をしてたんだったな」


 すっかり忘れていた。

 いつの間にか自分用に買うことばかりを考えていた。


「エメラダ。この剣を持ってみろ」


 俺はそう言って、ミルキーの方の木刀を彼女に渡す。

 エメラダはそれを両手で受け取る。


「わ、わわっ!? お、重いです……」


 彼女はよろけて、尻餅をつく。


「おい、大丈夫か?」


 俺は慌てて駆け寄る。


「だ、大丈夫です。でも、ちょっとあたしには重すぎるかなって……」


「そんなに重かったか?」


 俺は改めて、ミルキーから受け取った木刀を見る。

 ……確かに、見た目よりは重く感じるな。

 だが、鉄製の剣よりは確実に軽い。


「シルヴィ。ちょっと持ってみてくれないか?」


 俺は第三者の意見として、シルヴィに頼んでみる。

 ミナやミルキーでもいいのだが、彼女たちはドワーフだ。

 人族よりも腕力が強い傾向があるので、あまり参考にならない。


「承知しました!」


 彼女から木刀を受け取り、軽く素振りをする。


「ふむふむ……。振れないことはありませんが、普段わたしが使っている剣よりも少しだけ重いですね」


 シルヴィがそう答える。

 彼女のセカンドジョブは『聖獣戦士』だ。

 普段は中くらいの長さの剣を使っている。


「シルヴィ嬢ちゃんの剣は、その腰のやつだろ? 木刀がその長さの剣よりも重いってことはないと思うが……」


 ミルキーが首を傾げる。


「ん? ああ、普通ならそうかもしれないな」


 金属は種類によって重さがまちまちだ。

 だが、金属という時点で大抵は木よりも軽い。

 例外があるとすれば……。

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