269話 今から死ぬ奴には関係ねえよ

 行方不明のエメラダの情報を探っている。

 ダメ元で、道端に座り込んでいた酔っぱらいに聞き込みをしているところだ。


「エメラダ? はて、つい最近聞いたことがあるような……」


「本当か! いつ聞いたんだ?」


 意外にこういう奴の方が知っているものなんだな。

 酔っぱらいだから、口が軽いのも好都合だ。


「ええっと……。そう、数時間前のことだ。まだ日が沈んで間もない頃だったかな。確か、ガラの悪い連中に絡まれていて……。借金がどうとか……」


「それはどこでだ?」


「ここだ。俺はここでずっと飲んでいたからな」


「エメラダや男たちがどこに行ったかわかるか?」


「すまない。そこまではわからないな」


「そうか……」


「だが、もしかすると……」


「何か思い当たる節があるのか?」


 ほんの少しでも方向性が見えれば、今後の捜索も行いやすい。


「あの男たちは、闇ギルドの『毒蛇団』のメンバーかもしれねえ」


「『毒蛇団』?」


「ああ。この町ではかなり有名なゴロツキ集団だ。強盗、恐喝、スリ……。それに、法外な金利で金を貸して、強引に取り立てるということもしているらしいぜ」


「なるほど……。情報提供感謝する。これは礼だ」


「おっ!? ひひっ、ありがとよ。気をつけてな」


 俺は男に金を渡し、その場を後にする。

 この情報は大きい。

 エメラダの失踪と『毒蛇団』は無関係ではないかもしれない。

 俺は路地裏を進む。

 悪党が潜んで場所はおおよそ察しがつく。


「……来たか」


 前方から10人以上の男たちが現れた。


「コソコソと嗅ぎ回ってるようだなぁ。俺の舎弟も可愛がってくれたみたいだしな。ああ?」


 スキンヘッドの大男が声をかけてきた。

 その背後には、見覚えのある顔がある。

 先ほど酒場で一蹴したマッチョマンだ。


「俺の名はコウタ。お前たちに聞きたいことがあって探していた」


「なんだぁ? 命乞いなら無駄だぜ?」


「いや、そういうわけじゃない」


「なら、なんだ?」


「エメラダという女性を知らないか? 酒場では知らないと言っていたが、本当は知っているのだろう?」


「……なぜそう思う?」


「態度を見れば分かるさ。それに、こうしてわざわざ俺を潰しに来たことではっきりした」


「ちっ! バレちゃしょうがねえ。あの女のことは、もちろん知っているさ。だが、今から死ぬ奴には関係ねえよ」


「ほう。誰が死ぬって?」


「もちろんお前だよ。……おい、こいつをやっちまえ!」


 リーダー格の男の声を合図に、男たちが襲いかかってくる。

 情報を集めるために、せいぜいボコボコにしてやるとするか。

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