220話 ここは俺に任せて、里の中に逃げろ!

 黒狼団と戦闘になったが、意外に大した相手ではなかった。

 俺のチートスキル『ジョブ設定』『経験値ブースト』『パーティメンバー設定』『パーティメンバー経験値ブースト』はやはり偉大だ。

 即効性はないのでこの世界に来た直後はさほど強くなかった俺だが、今の俺はかなり強い。


 テツザン杯では優勝したし、ブラックワイバーンはみんなと協力して倒した。

 そして、冒険者ランクはBとなり『ドラゴンスレイヤー』の称号まで得ている。

 『悠久の風』のパーティランクもBだ。

 よく考えれば、多少悪名高い程度の盗賊団など俺たちの相手ではない。


 追い詰められた黒狼団の頭目カイゼルは、懐から取り出した角笛を吹いた。


「ギィッ!」


「ギイイッ!」


 音色につられて現れたのは、ゴブリンの大群である。

 そう。

 あの角笛は、『召喚笛』と呼ばれるアイテムだ。

 魔物を呼び出すことができる。

 ただし、その魔物の強さは演奏者の魔力や闘気に依存する。


 一般市民なら、ゴブリン数匹を呼び寄せるのがやっとだろう。

 逆に超一流の冒険者なら、ドラゴンすら呼び寄せることが可能である。

 ゴブリンの大群を呼び寄せたカイゼルは、まあまあといったところだな。


「行け、ゴブリン共よ! あいつらを皆殺しにするんだ!!」


「「「「ギャアアッ!!」」」」


 数十匹のゴブリンがこちらに向かってくる。

 どうやら、本気で俺たちを殺しにかかっているようだ。


「【エアバースト】!」


「【スラッシュ】!」


 ピュセルやヤナハたちエルフがゴブリンを迎撃していくが……。


「きゃああ!」


「ぐうっ!」


 何人かはゴブリンの攻撃を受けて傷を負ってしまう。

 シルヴィやユヅキたちも、さすがにこの大群相手では万が一があるかもしれない。

 このままだと少しマズい。

 俺はある決断をする。


「みんな! ここは俺に任せて、里の中に逃げろ!」


「ええっ!?」


「何を言ってるのですか!? いくらコウタ様でも、多勢に無勢ですよ!」


 ピュセルとヤナハが驚いている。


「大丈夫だ。それにこれは俺にしかできないことだ」


「それはどういう意味でしょうか?」


「説明する時間はない。早くしないと、さらなるゴブリンの大群が来るかもしれないぞ」


「しかし……」


 ピュセルたちはなおも渋っている。


「ここはご主人様に任せます!」


「あれをやるんだよね?」


「……確かに、あれを使うならティータたちは離れておいた方がいい……」


「コウタ殿。お気を付けてくださいまし」


 シルヴィ、ユヅキ、ティータ、ローズが俺の意図を理解してくれた。


「健闘をお祈りするのです」


「コウタっち! 頑張ってくれよな!」


 ミナとリンも理解してくれたようだ。

 普段からスキルの共有をしておいてよかった。


「ありがとう! 行ってくれ!」


「だが!」


 ピュセルがなおも食い下がる。


「いいから行くんだ! 必ず生きて帰る」


「……分かった。武運を祈る!」


「絶対に無事に帰って来てくださいね!」


 ヤナハとピュセルもようやく納得した。

 こうして、彼女たちはエルフの里の中へと避難していった。

 エルフの戦士や魔法使いたちもいっしょだ。

 それを確認した俺は、再びゴブリンの大群に向き直った。


「さあて。『あのスキル』を実戦に投入することにしようか。蹂躙劇の始まりだぜ!!」


 俺はそう呟きつつ、闘気と魔力を開放するのだった。

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