143話 秘密特訓の成果

 数日後。

 道場にていつも通りの鍛錬を行なっている。


「はあっ!」


 俺が繰り出す拳を、ユヅキが手で受ける。


「甘いね。せえぃっ!」


 ユヅキの蹴りを、俺はかわしてバックステップで距離を取る。


「よし、そこまでだ」


 ロドリゴの合図で、俺たち2人の模擬試合は終わった。


「だいぶ良くなってきたようだな。例の秘密の特訓とやらがうまくいったのか?」


 彼がそう言う。


「ああ。そんなところだ」


 詳細を説明すればこの道場の生徒たちの平均レベルは向上するだろう。

 しかし、内容が内容だしあまり広くは広めたくない。

 それに、俺のアレを口に含んだり飲ませたりするなんてことは、他の生徒にはさせられないからな。

 まあ、別に相手が俺である必要はないのだが。


「はあぁ!」


「いくのです」


「へへっ。あたいもいくぜ!」


 シルヴィ、ミナ、リンも精力的に鍛錬に励んでいる。

 それぞれ、気功術を無事に発動できている。

 俺との秘密の特訓の成果だろう。

 そんな感じで、その日の鍛錬は進んでいった。


「今日はここまでとする。各自、しっかり休息を取って明日に備えろ」


 日が暮れてきた頃、ロドリゴがそう言った。


「ああ。今日も有意義な鍛錬だった。ありがとう」


 俺はそう言う。


「それにしても、お主たちの上達は想定以上だ。どうだ? 今度、武闘大会に出てみるか?」


「武闘大会だと?」


 俺はそう聞き返す。


「うむ。一年に一度開かれる定期大会だな。なかなかの強者が揃う」


「だが、俺たちの『格闘家』のジョブレベルはまだまだだぞ」


「問題ない。『格闘家』のジョブを取得したての者や、他のジョブの上級者も出るからな。お主たちならいい線いくかもしれん。さすがに上位入賞は難しいだろうが」


 ロドリゴがそう説明する。

 ふむ。

 いい経験になりそうだな。

 ジョブのレベルがさらに上がるかもしれない。


「悪くないな。出てみよう」


 俺はそう答えた。


「そうこなくてはな」


 ロドリゴが満足げに笑う。


「じゃあ、わたしも出ます! ご主人様にいいところを見せたいです!」


 シルヴィが手を挙げる。


「ボクも出るのです。賞金は欲しいのです」


 ミナがそんなことを言う。


「へへっ。あたいだって負けねえぞ」


 リンが不敵に笑った。


「みんなやる気みたいだな。ところで、その大会はいつ行われるんだ?」


「来月だな。ちょうど1か月後だ」


「わかった。それに向けて頑張るとしよう」


 俺たちは、新たな目標に向かって気持ちを新たにするのであった。


 

 …………。

 その頃、とある場所。

 1組の男女が佇んでいた。


「ふうん。ここが武の名地テツザンねえ……」


「ああ。この近郊では屈指の実力者が揃うらしい」


「面白そうね。久しぶりに腕が鳴るわ」


「しかし、我々がこんなにあっさり侵入できるとはな。警備がザルではないか」


「平和ボケしているのね。長らく戦いはなかったし、仕方ないわ」


「それもそうか。さっさと目的の物を手に入れるぞ」


「承知」


 そして、2人の姿は闇に消えた。

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