42話 ミナの困りごと

 数日が経過した。


「よし。今日は、ユヅキの武具が完成する日だったな」


「そうだね。ミナさんの腕は確かなようだったし、新しい装備が楽しみだよ」


 ユヅキがそう言う。

 彼女の今の装備は、使い古されている。

 特別質が悪いというわけではないが、やはり経年劣化により心もとない点はある。


「ユヅキさんが強化されれば、わたしたち『悠久の風』もますます活躍できるでしょう。楽しみですね」


 シルヴィがそう言う。

 俺たち自身のジョブレベルの上昇に、装備の質の向上。

 俺たちが対処できる魔物はどんどん増えていく。

 この調子なら、いずれはダンジョンの階層ボスも撃破できることだろう。


 可能であれば、いずれではなくて近いうちに挑戦したいところではあるが……。

 パーティメンバーが3人ではさすがに不安だ。

 いい人が見つかればいいのだがなあ。


 俺はそんなことを考えつつ、歩みを進めていく。

 そして、目的地であるミナの鍛冶場に到着した。


「おおい! ミナはいるか?」


「……はーい、なのです……」


 中からミナが顔を出す。

 いつも通り、かわいい少女だ。

 いや、今日はどことなく雰囲気が暗いような……?


「ユヅキの武具を受け取りに来たのだが……。もしかして、失敗したのか?」


「……いえ。ユヅキさんのは無事につくれたのです。これなのです……」


 ミナがそう言って、武器と防具を差し出してくる。


「いい感じだね。これなら、僕ももっと活躍できると思う」


「ああ、素晴らしい武具だ。ミナの腕は大したものだな」


 俺はミナに代金を支払う。


「毎度ありなのです。じゃあ、ボクはこれで……。やることが残っているのです……」


 ミナがふらふらと仕事に戻ろうとしている。

 新しい武具は無事に受け取ったわけだし、俺たちの用事は済んだが……。

 少し心配だな。


「ミナ。何か困りごとか?」


「……いえ。お客さんに話すようなことではないのです。これは、ボクの問題なのです……」


 困りごとがあるのは確かなようだ。

 ただし、俺とミナの関係は、客と売り主である。

 あまり込み入った事情を話すわけにはいかないといったところか。


「言うだけ言ってみてくれないか? 俺とミナの仲だろう。俺はミナのことを、ただの鍛冶師以上の大切な存在だと思っているぞ」


 具体的には、ハーレムメンバーになってくれないかなという淡い希望がある。

 それを実現するためにも、力になれそうなことは力になっておきたい。


「コウタくん……」


 ミナが感動したような表情でこちらを見る。

 彼女はしばらく悩むそぶりをした後、口を開く。


「実は……。領主さんから、大口の注文があったのです。オリハルコンを使った武器なのです」


「オリハルコンか。相当に貴重な素材らしいな」


「はいなのです。オリハルコンは領主さんの提供してもらって、ボクはそれを加工する役目だったのですが……」


 ミナがチラリと、部屋の隅を見る。

 いびつな形で固形化した、金属の塊がある。

 あれは……。


「見ての通り、加工に失敗してしまったのです。あれはもう使い物にならないのです」


「ふむ……。オリハルコンの加工に失敗したのか。それは痛いな……」


 オリハルコンは、扱いが難しい素材だ。

 例えば鉄だと、加工に失敗したら溶かし直して再チャレンジもできる。

 しかし、オリハルコンの場合はそうはいかない。

 劣化して、硬度や耐久力が大きく落ちてしまうのだ。


「こんなこと、ボクを信じて任せてくれた領主さんには言えないのです。なんとか、ボクのツテで代わりのオリハルコンが手に入らないかがんばっているのです。それで、今度こそは成功させるのです」


 自分の失敗を返上するために、自分の持ち出しで代わりの材料を手に入れようとしているのか。

 ビジネスとして見れば、赤字確定だろう。

 あまりいいこととは言えない。


 依頼主である領主に正直に言うのはどうだろう?

 オリハルコンの加工の難しさは知っているはずだし、そういったリスクも織り込み済みかもしれない。

 あっさりと、代わりのオリハルコンを提供してくれたりしてな。


 ……いや、その考えは少し甘いか?

 領主は、権力者だ。

 その領主からの依頼を失敗したとなると、大事になるかもしれない。

 リスクが大きい。

 自らの持ち出しで解決できるのであれば、そのほうが無難だ。


「ふむ……。鍛冶のことは俺はよくわからないし、成功を祈るしかないか……。しかし、肝心の代わりのオリハルコンは手に入りそうなのか?」


「いえ……。今のところ、各方面から色よい返答はもらえていないのです。噂では、エルカ迷宮の1階層のボスが稀にドロップするそうなのですが……」


 MSCにおいても、確かにオリハルコンをドロップする魔物は存在した。

 ミナの話に、ある程度の信憑性はあるだろう。


 俺たち『悠久の風』でドロップ品の獲得を狙うのもありか?

 ……いや。

 そもそも、俺のミッション報酬にオリハルコンがあったか。



ミッション

『悠久の風』にてダンジョンの階層ボスを撃破せよ。

報酬:オリハルコン(中)、経験値(小)



 このミッションを達成して、手に入れたオリハルコンをミナに提供するという方向性はどうだろうか。

 彼女に多大な恩を売ることができるだろう。

 そして彼女からの好感度がうなぎのぼりとなり、ハーレムに入ってもらえるかもしれない。


 ……よし、完璧な計画だな!

 我ながら惚れ惚れするぜ。


「エルカ迷宮は、ちょうど俺たち『悠久の風』も挑戦しようとしていたところだ。俺たちが手に入れる機会があれば、ミナに提供しよう」


「それは助かるのです。でも、3人でダンジョン攻略は厳しいと思うのですが……」


「ああ、それは確かに。2人ほど、臨時のパーティメンバーを探しているのだが、なかなかな見つからなくてな」


「……では、ボクが手伝うのです」


「ミナが?」


「ボクはこれでも、『槌士』として鍛えていた時期があるのです。今は『鍛冶師』なので攻撃系のスキルは使えないですが、1階層攻略のお手伝いくらいはできると思うのです」


 彼女はドワーフ。

 『鍛冶師』の他、『槌士』や『火魔法使い』の適正が高いはず。

 鍛冶師に転職する前は、槌士としてがんばっていたそうだ。


「ふむ……。それは心強い。なあ? シルヴィ、ユヅキ」


「そうですね! 槌士といえば、抜群の破壊力が特徴です。わたしたちにない力を発揮してくれることでしょう」


「うん。僕たち3人は、近接戦闘では全員剣を使うもんね。ハンマーを使う人がいれば、戦闘の幅が広がると思う」


 ミナの臨時加入に対して、シルヴィとユヅキも前向きだ。


「よし。では、打ち合わせを兼ねて飯でも食いにいくか」


「料亭ハーゼに行きましょう! じゅるり……」


 シルヴィがよだれを垂らす。

 本当に、彼女はあそこの肉料理が好きだな。

 まあ、俺も同じだけど。


「料亭ハーゼ? ボクは行ったことがないのです」


「いい肉料理が出るところなんだ。オススメだよ」


 ユヅキがそう言う。

 そんな感じで、俺たちは料亭ハーゼに向かうことになった。

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