4話 ゴブリンに追われている馬車を助ける

 馬車がゴブリンの群れに囲まれている。

 俺がさっそうと助けてやることにしよう。


「揺蕩う風の精霊よ。契約によりて我が指示に従え。風の刃を生み出し、我が眼前の敵を切り裂け。ウインドカッター!!!」


 ザシュッ。

 ザシュザシュッ!


 風の刃がゴブリンたちを襲う。

 この数日で、俺の基礎レベルはずいぶんと上がった。

 ゴブリン程度であれば問題なく討伐できる。



コウタ

種族:人族

ファーストジョブ:風魔法使いレベル4

セカンドジョブ:剣士レベル3

HP:E+

MP:E++

闘気:E+

腕力:E+

脚力:E

器用:E


システムスキル:

ジョブ設定

経験値ブースト


アクティブスキル:

ウインドカッター



 風魔法使いのレベルが剣士のレベルよりも高いのは、ファーストジョブとセカンドジョブの違いである。

 ファーストジョブのほうが上がりやすい。


 複数のジョブを設定しているだけあって、ステータスが早いペースで成長している。

 そろそろ、駆け出しの最初級は卒業といってもいいかもしれない。


 俺はそんなことを考えつつ、ウインドカッターをどんどん放っていく。


「「ぎゃおおっ!」」


 ゴブリンたちが悲鳴を上げる。

 そして、10匹以上いたゴブリンはあっという間に全滅した。


「おう。無事だったか? お前ら」


 俺はそう声を掛ける。


「お、おお、通りすがりの冒険者でしょうか。助けていただき、ありがとうございます」


 男がそう言って頭を下げる。

 何やら視線が泳いでいたが、どうしたのだろう?


「わ、わたしも……。助かりました。ありがとうございます。あう……」


 フードをかぶった少女がそう言う。

 何やら手で目を塞いでいる。


 フードや手により、顔はよく見えないが……。

 チラリと見えた首元には、奴隷用の首輪がしてあった。

 いろいろと思うところはあるが、今は置いておこう。


「いや、大したことじゃねえよ。美女や美少女を助けるのは、男として当然のことだ。……ああ、ついでに困っている男も気が向けば助けるが」


「そ、そうでしたか。それで、その……。お召し物を着ておられないのは、何か事情があるのでしょうか……?」


 男の言葉を聞いて、俺は自分が全裸であったことを思い出した。


「むっ!? 服を着ていないのを忘れていたぜ。これは修行の一環のようなものだ。あまり気にしないでくれ」


 俺はそうごまかす。


「な、なるほど……。見事な風魔法でしたし、高位の魔法使いの方は常人には理解できない鍛錬をされるのですな……。よろしければ、服をお譲り致しましょうか?」


「ふむ。ありがたくいただいておくか」


 ストレージにはミッション報酬で得た装備がある。

 しかし、この世界の普段着は持っていない。

 もらえるのであればもらっておくべきだろう。


 俺は受け取った服を着る。


「おう。お嬢さんにも汚いモンを見せちまったな」


「い、いえ……。大変すばらしいものでした」


 少女が顔を赤くしてそう言う。

 そんなに俺のマグナムはすばらしかったか?

 もう一度脱いで見せつけたい衝動に駆られるが、必死に堪える。


「さて。できればここから最も近い町であるエルカまで、ご同行願えませんでしょうか? またゴブリンたちが出ると怖いですし、今回助けていただいたお礼もしたいのです」


「おう。そりゃ構わねえぜ。俺も町に行きたいと思っていたところだしな」


 ちょうどいい。

 ミッションが達成できる。


 それに、より多くの人と話すことで、この世界に対する正確な把握も可能になるだろう。

 この男や少女と話した感じでは、AIっぽさは感じないが……。


「よろしくお願いします。私はエルカで商会を営んでおります、ルモンドと申します」


「おう。俺はコウタだ。……それで、そっちの美少女は?」


 野郎の名前はどうでもいい。

 この少女の名前が気になる。

 フードでよく見えないが、なかなかの美少女のように感じる。


「ああ、こちらは先日仕入れた奴隷ですな。……おい、自己紹介をして差し上げろ」


「シルヴィです。あの、助けていただき、ありがとうございました」


「いいってことよ。美少女を助けるのは男として当然のことだからな。よければ、これを機に俺とお付き合いを……」


 俺はそう言ってシルヴィの手を取り、真正面から彼女の瞳を見つめる。


「あ、あう……」


 シルヴィは顔を真っ赤にして、しどろもどろになっている。

 ペタン。

 彼女が尻もちをついた。

 スカートがめくれ、パンツが俺から丸見えになっている。


「おお! 白色のパンツか。イカしてるぜ!」


 いいものを見た。

 俺は親指を立てて、褒める。


「うぉっほん! 困りますな。そちらのシルヴィは奴隷であり、当商会の売り物です。恩人のコウタ殿とはいえ、高級品の奴隷を傷物にされるわけには……」


「おお、そりゃすまなかったな。それにしても、こんな美少女が奴隷か。買えるやつは羨ましいぜ」


 俺はシルヴィの手を取り、起き上がるのを手助けする。


「ふむ。他ならぬコウタ殿です。特別に、割引料金でお譲り致しましょうか? さすがに、無料でというわけにはいきませんが……」


「マジか!? そりゃ嬉しいぜ。詳しい話を聞かせてもらおうか」


「そうですな。……一括払いであれば、金貨300枚でお譲りしましょう」


「金貨300枚か。さすがに、そんな大金をポンと出せる余裕はねえな」


 この世界の相場がMSCと同程度であれば、金貨300枚は300万円ぐらいの感覚だ。

 俺はこの世界に来てまだ町を訪れていない。

 当然ながら無一文である。


 ここで、MSCにおける金銭感覚を整理しておこう。

 駆け出しのEランク冒険者の日給は金貨1枚以下。

 初級のDランク冒険者の日給は金貨1~2枚程度だ。


 中級のCランク冒険者になると、遠征や護衛依頼などが中心になるので、日給に換算することは難しい。

 平均で言えば、日給は金貨3~5枚ぐらいになる。


 上級のBランク冒険者以上になると、さらに算定が難しい。

 自由気ままな者が多く、依頼料をあまり重視しない者も多いのだ。

 しかし少なくとも、その気になれば日給で金貨10枚程度は当たり前のように稼ぐ者がゴロゴロいる。


 さらにその上にAランクやSランク冒険者もいるが、今は置いておこう。


 俺はこの数日でレベルを上げた。

 まだ冒険者ギルドに登録はしていないが、既に駆け出しのEランクは超えている。

 Dランク相当の実力だ。

 今回のようにうまく魔法をぶっ放せるお膳立てがあれば、Cランク相当の殲滅力があるとも言える。


 うまくCランク相当の稼ぎを得られたとしても、日給は金貨3枚~5枚程度だ。

 金貨300枚を貯めるのに、2か月以上かかるだろう。

 日々の生活費などを考えれば、もっと時間がかかる。


「それは残念です。ちなみに、今のお手持ちはいかほどで……? 利子はいただければ、分割払いの相談にも乗りますよ。前金として、最低でも金貨50枚ほどはいただきたいですが」


「金貨50枚か。それなら何とかなるかもしれん。このシルヴィは、しばらく他のやつに売らずにいてくれ」


 金貨50枚。

 実力相応のDランクとして堅実に稼ぐなら、1か月以上かかる。

 しかし、魔法をうまく使って稼ぐなら、最短で10日ほどで稼げる可能性はある。


 加えて、レベルアップによる戦闘能力の向上もある。

 徐々に稼ぐペースは上がってくるだろう。

 そのあたりも加味すれば、もっと稼げる可能性はある。


「承知しました。しばらくはそのように致しましょう」


 ルモンドがそう言う。

 彼にしても、ただで奴隷を譲るのであればともかく、しばらく売らずに置いておく程度であれば構わないのだろう。


 しかし、あまりにも待たせすぎるとしびれを切らすかもしれない。

 売らずに置いておく間の食費などもただではないのだから。


 ルモンドが心変わりをしないうちに、シルヴィの購入資金をせっせと貯めていきたいところだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る