社畜だけど転移先の異世界で【ジョブ設定スキル】を駆使して世界滅亡の危機に立ち向かう ~【最強ハーレム】を築くまで、俺は止まらねぇからよぉ!~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

1話 襲われた馬車 奴隷の少女シルヴィとの出会い

 馬車が草原を走っている。

 後方にはゴブリンの群れ。


「おい! もっと急げ!」


「す、既に最高速度です! これ以上は……」


 荷台から指示を出す男に対し、御者の男がそう返答する。

 確かに、馬車はかなりの速度を出している。

 これ以上速度を上げるのは厳しいし、ムリに上げても馬車の車輪が壊れたり馬がこけたりするリスクもある。


 馬車の後方に迫る喫緊の脅威を何とかしなければならない。

 ゴブリンの群れが馬車に追いつきつつある。


「くっ。逃げ切れそうにないか。いざとなればこの奴隷を……。いや、それは最後の手段だ」


 馬車からゴブリンの群れを見つつ、男がそう言う。


 彼は行商を営んでいる。

 馬車の荷台には、行商用のいくつかの積荷が載せられている。


 さらに、奴隷が1人乗っている。

 10代中盤の少女だ。

 フードを被っており、顔はよく見えない。


 行商の男は、状況の打開策を考える。

 ゴブリンたちが人を襲う目的は、メスの調達や食料の奪取だ。


 食料の積荷を馬車から捨てれば、ゴブリンたちの気を引けるだろう。

 しかし、今は残念ながら工芸品などの積荷しかない。


 あとは……。

 先ほども考えた通り、奴隷の少女をおとりとして馬車から突き落とすことも考えられる。


 しかし、奴隷は高級品だ。

 この奴隷の調達にも、金貨300枚以上をつぎ込んでいる。

 金貨300枚といえば、普通に生活して1年、つつましく生活すれば2~3年は生きていけるぐらいの大金だ。

 いくら自身の安全のためとはいえ、高級品である奴隷をおとりとして使い捨てることに踏ん切りがなかなかつかない。


「くっ。ぐぬぬ……」


 男は悩む。

 そうこうしているうちに、ゴブリンたちがすぐそこまで迫ってきている。


 ガタン!

 大きな音がしたと同時に、馬車が急激に減速していく。


「何があった!?」


「速度を上げすぎたようです……。車輪がイカれました!」


 御者の男がそう答える。

 あっという間に、ゴブリンたちが追いついてきた。

 即座に攻撃を仕掛けるのではなく、まずは落ち着いて馬車を取り囲んでいる。


「くっ。囲まれてしまったか……。戦って何とか突破するしかない」


 行商の男がそう言って、剣を取る。

 ゴブリンは下級の魔物だ。

 戦闘技能がない者でも、少数相手であれば勝てる可能性がある。


 とはいえ、今の相手はゴブリンが10匹以上。

 包囲網を何とか抜けて必死に逃げるのが現実的だろう。


「シルヴィ。お前も剣を取れ。特別に許可する」


「はい……。わかりました」


 シルヴィと呼ばれた奴隷の少女がそう答える。

 彼女は剣を受け取り、ゴブリンたちに向ける。

 さらに御者の男も戦列に加わる。


 これで、一般人3人対ゴブリン10匹以上の構図になった。

 かなり厳しい戦いになるだろう。

 負ければ、男2人は殺され、少女シルヴィはゴブリンの苗床となる未来が待っている。


「「ぎいぃっ!」」


 ゴブリンたちが互いに合図して、一斉に飛びかかる。

 絶望的な戦いが幕を開けようとした、そのとき。


「揺蕩う風の精霊よ。契約によりて我が指示に従え。風の刃を生み出し、我が眼前の敵を切り裂け。ウインドカッター!!!」


 ザシュッ。

 ザシュザシュッ!


 風の刃により、ゴブリンたちが討伐されていく。

 10匹以上いたゴブリンは、あっという間に全滅した。


「おう。無事だったか? お前ら」


 助けに入った青年がそう声を掛ける。

 年齢は10代後半から20代前半くらいだ。


 行商の男や奴隷の少女シルヴィからすると、彼は命の恩人ということになる。

 深い感謝や尊敬の念が向けられていただろう。

 ……普通であれば、だが。


「お、おお、通りすがりの冒険者でしょうか。助けていただき、ありがとうございます」


 行商の男が、何かにうろたえつつそう言う。


「わ、わたしも……。助かりました。ありがとうございます。あう……」


 奴隷の少女シルヴィが、自身の目を手で覆いながらそう言う。


「いや、大したことじゃねえよ。美女や美少女を助けるのは、男として当然のことだ。……ああ、ついでに困っている男も気が向けば助けるが」


 青年がそう言う。

 彼は女好きであった。


 魔物に襲われている馬車を見つけ、助けるかどうか考えているとき。

 荷台にフードを被った少女が乗っているのを見て、助けに向かうことを決めたのである。

 さらに、実際に助けて近くから見てみると、ただの少女ではなく美少女だった。

 まあ、フードを被っているので詳細な顔つきはよく見えていないのだが。


「そ、そうでしたか。それで、その……。お召し物を着ておられないのは、何か事情があるのでしょうか……?」


 行商の男が恐る恐るそう尋ねる。

 そう、助けに入った青年は全裸であったのだ。


「むっ!? 服を着ていないのを忘れていたぜ。これは修行の一環のようなものだ。あまり気にしないでくれ」


「な、なるほど……。見事な風魔法でしたし、高位の魔法使いの方なのでしょうな。常人には理解できない鍛錬をされることもありましょう……。よろしければ、服をお譲り致しましょうか?」


「ふむ。ありがたくいただいておくか」


 青年は行商の男から服を受け取る。

 彼は服を着つつ、口を開く。


「おう。お嬢さんにも汚いモンを見せちまったな」


「い、いえ……。大変すばらしいものでした」


 奴隷の少女シルヴィがそう言う。

 フードによって顔を隠しているが、チラリと見える頬は赤く染まっているように見える。

 これは青年のあれを見たことによる照れか。

 もしくは、自分の命を救ってくれた男に恩義を感じると同時に、淡い恋心を抱いているのかもしれない。


「さて。できればここから最も近い町であるエルカまで、ご同行願えませんでしょうか? またゴブリンたちが出ると怖いですし、今回助けていただいたお礼もしたいのです」


「おう。そりゃ構わねえぜ。俺も街に行きたいと思っていたところだしな」


 青年がそう言う。

 彼はとある事情により、このあたり……、いや、この世界の常識や地理に疎い。

 町までの同行願いは、渡りに船であった。


「よろしくお願いします。私はエルカで商会を営んでおります、ルモンドと申します」


「おう。俺はコウタだ。……それで、そっちの美少女は?」


 女好きの青年コウタにとって、男の名前などどうでもよかった。

 そんなことより、美少女の名前が気になっている。


「ああ、こちらは先日仕入れた奴隷ですな。……おい、自己紹介をして差し上げろ」


 ルモンドが少女にそう指示する。


「シルヴィです。あの、助けていただき、本当にありがとうございました」


 シルヴィと呼ばれた少女がおどおどとそう言う。


「いいってことよ。美少女を助けるのは男として当然のことだからな。よければ、これを機に俺とお付き合いを……」


 コウタがそう言ってシルヴィの手を取り、真正面から瞳を見つめる。


「あ、あう……」


 シルヴィは顔を真っ赤にして、しどろもどろになっている。

 ペタン。

 彼女が尻もちをつく。

 スカートがめくれる。


「おお! 白色のパンツか。イカしてるぜ!」


 コウタが親指を立て、そう褒める。

 そして、彼が食い入るようにしてシルヴィのパンツを見入る。


「うぉっほん! 困りますな。そちらのシルヴィは奴隷であり、当商会の売り物です。恩人のコウタ殿とはいえ、高級品の奴隷を傷物にされるわけには……」


 ルモンドがそう苦言を呈する。

 コウタの助けがなければ、ルモンドの命はなかっただろう。

 とはいえ、結果的に助かった今、高級品である奴隷をポンと譲る決心はつかなかった。


「おお、そりゃすまなかったな。それにしても、こんな美少女が奴隷か。買えるやつは羨ましいぜ」


 コウタがそう言う。

 シルヴィに手を差し出し、彼女が起き上がる手助けをする。


 コウタは、奴隷制度に大きな忌避感は持っていなかった。

 過剰に虐げられている奴隷を見ればまた考えは変わるかもしれないが……。


「ふむ。他ならぬコウタ殿です。特別に、割引料金でお譲り致しましょうか? さすがに、無料でというわけにはいきませんが……」


「マジか!? そりゃ嬉しいぜ。詳しい話を聞かせてもらおうか」


 コウタが食いつく。

 奴隷本人であるシルヴィの前で話す内容ではないが、2人ともあまり気にしていない。

 ルモンドは商人として奴隷のことは商品であると思うようにしていたし、コウタは美少女に出会えた幸運によってハイテンションなのだ。


 そして、実はシルヴィ自身もあまり気にしていない。

 それよりも、自身の命の恩人であるコウタに引き取られることになるかどうかに気が向いていた。


 コウタ、シルヴィ、ルモンド。

 御者の男が馬車を進める傍ら、3人の思惑が荷台で交差する。


 さて。

 ここで、コウタという青年のいきさつをたどってみよう。

 彼はなぜ全裸で現れたのか。

 時は、数日だけ過去に遡る。

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