第28話 めんどくさい>諦め

 わたしがまだ小さかった頃、近所に豪快なおじさんがいた。

 遠い親戚に当たるとか?当たらないとか?

 よく分からないけど、小さい頃はたまに、そのおじさんの家にお邪魔していた。

 その家には火鉢ひばちがあり、火鉢の上に薬缶やかんが置かれていた。

 火鉢なんてそう滅多にお目にかかる物でも無かったから、わたしは興味深々だった。


 ある時、火鉢に置かれていた薬缶を見たおじさんが、奥さんを呼び出してこう言った。


「お前、この薬缶は磨いているのか?」


 すると、奥さんはこう答えた。


「そんなもの磨いたって綺麗になんかならないわよ、もう」


 対して、おじさんは言った。


「なんでそうお前はすぐに諦めるんだ。


 ・・・・え?

 いま、なんて?


 わたしはおじさんの言葉に耳を疑った。

 そして、希望の光を見出した。

 なぜならわたしは、小さな頃から既に『めんどくさがりや』だったから。


 そうか。

 めんどくさいのは、いいんだ。

 諦めるよりは、いいんだ。


 今もおじさんの言葉は確実に、私の心の支え(の一部)になっている。

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