第拾肆章 邪神との決戦

 邪神の体からはがれた半身である悪鬼白竜は刹那の「時の使者」としての能力により邪悪な魂は浄化され白き竜神として産まれ変わる。そして彼は神子より真名を貰い「龍樹」として彼女を守る守護竜となった。そして一行はいよいよ邪神の下へとたどり着くのである。


「ここに邪神がいるんですか」


「ああ、そうだよ。この五芒星で並んだ石の中に奴はいる。結界の外には出ては来れない。だけどこの中に入ったら何をされるか分からない。気を引き締めて行かないとやられるかもしれないね」


神子の質問に刹那が答えるとそう話す。その言葉に皆の間に緊張が走った。


「我、彼の地より来たりし時の使者……この地を守りし封印よ、今こそ解き放たれて彼の者の前へと道を開けよ……さあ、行くよ」


刹那は何やらぶつぶつと呪文のような言葉を唱えた後、皆へと向けてそう声をかけてから先導するように結界の中へと足を踏み入れる。


しばらく進んでいくと開けた空間が広がりその中間には着物姿の美しい女性が立っていた。


「女の人? ……あの、すみません。こんなところでどうされたのですか」


「……」


こちらから背中を向けてぼんやりと佇む女性の姿に神子が声をかける。その様子を見守りながら刹那は鋭く目を細めた。


「ここに縛られていてはなにもできない。誰も来ない。だからいけにえとなる者をここに来るよう仕向けた。でももうそれも今日で終わる……」


「あ、あの。何を言ってるんですか?」


女性がこちらへと振り返ると低い声でそう話す。その言葉の意味が解らず神子は困惑して尋ねた。


「我をこの地に縛り付けた者が憎い。我を倒そうとするものが憎いのだ。だから貴様さえいなくなれば我を縛り付けるこの地から放たれることだろう」


「下がって。あれが邪神だ」


女性がおどろおどろしい口調で言うと神子を睨み付ける。困惑する彼女の前へと進み出た刹那がそう言うと短剣を取り出し身構えた。


「え?」


「貴様さえいなければ……貴様さえ!!」


「させないよ」


彼女の言葉に神子が驚いた時、女性とは思えない男のような低い声で喚き、赤黒い雷が狂ったようにこちらへと迫りくる。


その様子に刹那が言うと緑の石に力を込め打ち消す。


「それが君の本当の姿なんかじゃないでしょ。姿を現したらどうなんだい……邪神」


【グァアッ!? 貴様か、あの時の小娘が……貴様も瑠璃王国の姫と一緒に葬ってくれるわ】


にやりと笑い彼女が言うと風刃をくらわす。その攻撃により浮かび上がった邪神の影がそう言って赤黒い瞳で睨みやった。


「寝言は寝てから言いなよ。……何をぼんやり突っ立てるのさ。邪神を前にして気を抜いている場合じゃないでしょ。奴の攻撃が来るよ」


「あれが邪神……さっきまでは気配も何も感じなかった」


「思っていたよりでかいじゃねえか。これが邪神の真の姿か」


邪神に対して薄ら笑みを浮かべ言い放つと背後でぼんやり突っ立ている皆へと声をかける。その言葉で我に返った栄人が不覚だとばかりに呟きを零す。伸介も敵のあまりの大きさに驚き冷や汗を流した。


「ほらほら、真人早く構えて」


「もう、こういう時こそしっかりしなきゃダメじゃないの」


ぼんやりしたままの真人の袖を引っぱりケイトが言うとケイコも唇をとがらせて説教する。


「ご、ごめん。禍々しい邪気に呆気にとられちゃって……それじゃあケイト、ケイコお願いするよ」


「「うん。まっかせて」」


真人がすまないといった感じで言うと2人に指示を出した。彼等が答えると刹那の横へと並んでいつでも戦えるように身構える。


「おっと、こいつは気を引き締めて行かねえと本気でやばそうな相手だな……皆無理はすんなよ」


「貴方の身を守るのが俺の役目です。貴方こそ無茶なことしないようにな」


喜一が冷や汗を流しながらそう言うと扇子を構えた。その前へと出てきたアシュベルが忠言する。


「アッシュ君俺のことより神子さんを守ることを優先してくれないかな。邪神の狙いは神子さんを殺す事だから。そんなこと絶対にさせないように」


「そんなこと言われなくたって分かってる。1人の少女を守れない奴なんか側近兵などやってられやしないからな」


その言葉に真顔になり話した彼の言葉に、分かってると頷き答えると神子を守るように前へと進みでる。


「今回は派手に行くしかなさそうね」


「わ、私も。皆の足手まといにならないように頑張ります」


レインが言うと武器を片手に身構えた。信乃も恐怖に震える体をごまかすかのようにしっかりとした言葉で答える。


「信乃のことは俺が守るから大丈夫だ」


「いいや。信乃のことはおれが守る。お前は邪神の相手でもしてろ」


「言うね~。そんじゃどっちが先に邪神の体力を減らせるか勝負だな」


「兎に角力尽きるまでたたけばいいんだろう。簡単だ」


紅葉が言うと蒼がその役目は自分だと言いはる。そんなことを言いながらも2人は連携して如何攻撃すれば邪神の体力を減らせるのかをアイコンタクトで語りあっているようだった。


「亜人……無茶しないでね」


「弥三郎様こそ無茶なことはなさいません様に……では行きますよ」


「うん」


弥三郎の言葉に亜人が忠言すると鋭い眼差しに変わり駆け出す。その後に続くように彼も敵目掛けて走り出した。


「皆さん頑張ってください。怪我をしたら僕にお任せを」


「神子様の事を頼む。行くぞ」


「ああ。一発お見舞いしてやろうじゃないか」


文彦が心配そうな顔で言うと隣に立っていた隼人が彼へと一言頼み伸介へと声をかけた。それに大きく頷くと刀を手に邪神の下へと駆けだす。


「お願いです。皆様をお守りください……」


「優人絶対に俺達の前に出てくるな。いいな、それじゃ行ってくる」


「はい。栄人お兄様お気をつけて」


腕輪に祈りを捧げた優人へと栄人が声をかけ前列で戦う刹那達に合流するため駆けて行く。


その背へ向けて彼が声をかけると自分は攻撃を受けないようにと一番背後へと下がる。


【人間風情が我に勝てると思うな。貴様等全員魂ごと葬り去ってくれるわ】


「くっ……殺気だけでこの波動。うかつに近づけやしねえな」


「……神子。龍樹を呼んで力を貸してもらうんだ」


邪神が唸ると鋭い殺気により身体がしびれる。その様子に伸介が冷や汗を流し呟く。何事か考えていた刹那が神子へと指示を出す。


「はい。……龍樹さんお願いします」


「主のご命令のままに」


神子は返事をすると龍樹を召喚する。白い光の柱から降りてきた竜神が微笑み彼女を守る様に隣へと降り立つ。


【貴様……人間どもに味方するなどおろかな】


「貴方の思い通りに等させやしない。主はわが命に代えようとも必ずや守って見せる。……半身であるおれを失った今。貴方の中に残った力はごくわずかな物でしょう。主達と戦い勝つことなどできやしない。どうせ貴方のことですからそんなことを言ったところで聞きやしないでしょうがね」


下は半身であった彼を睨みやり邪神が呟く。そんな相手を睨み返して龍樹が言い放つ。


【邪魔さえ入らなければあと少しで貴様を取り込めたものを……貴様を我の中に取り込めなかったのだからな貴様が生きている意味はない。にっくき人間ともども滅ぼしてくれる】


「だからさ、寝言は寝てからいいなって言ってるでしょ。レイ、アッシュ、紅葉、蒼。僕と一緒に君達の能力を邪神へとぶつけるんだ」


「「分かった」」


「「了解」」


憎々し気に喚いた邪神へと向けて刹那が鼻で笑うとレイン達に指示を出す。それを聞いた彼女等はそれぞれ返事をして術式を構成し始めた。


「龍樹、信乃、優人。君達は援護を頼む。僕達皆を守る結界と守護の力の強化を」


「「「分かりました」」」


次に背後にいる龍樹達へと指示を出す。彼等がそれに答えると神経を統一して祈りを込める。


「赤き雷鳴唸れ。そして全てを焼き尽くす炎よ我が前の敵を滅せよ」


「白き雷と光の刃よ敵を射貫け」


アシュベルとレインが切っ先を敵へと向けるとそう唱えた。同時に発生した赤色の雷と火柱が邪神を飲み込んだかと思うとそこに彼女の放った雷と光の刃が奴を貫く。


「こいつも食らいな。ひのえひのと


「漆黒の風よ……旋風」


彼等の攻撃が切れたタイミングで紅葉の放った炎の攻撃と蒼の攻撃が渦を巻き敵を飲み込む。


「煌きよ……意を示せ」


刹那が淡泊に唱えると流星のごとく邪神の頭上から光の雨が降り注ぐ。そして緑の魔法陣により身動きを封じられた。


「皆さんをお助け下さい」


みずのえみずのと


「我が力汝らの助けとならん」


腕輪に祈りを込めていた優人が言うと神々や精霊達の術により目に見えない加護の力で体力や精神力や神力があがる。そこに信乃の声が聞こえたかと思うと水のドームが現れ邪神から守るように結界がはられた。龍樹が唱えると竜神の加護により戦闘力が上昇する。


「伸介、隼人、弥三郎、亜人、喜一、栄人。僕の術で身動きを封じている今のうちに奴の体を覆っている赤黒い波動の結界を砕くんだ」


「「分かった」」


「はい」


「「承知した」」


「任せろ」


刹那の言葉により伸介達は一斉に結界目がけ武器で切ったり叩いたりする。


「ねえねえ。ボク達もそろそろいいかな」


「そうよ刹那。ワタシ達だって活躍したい~」


「勿論さ。結界が壊れた瞬間に奴に一発お見舞いしてあげて」


「「任せて」」


ケイトが言うとケイコも同意する。それにもちろんだって頷き刹那が指示を出す。それを聞いた2人がにやりと笑いいつでも突っ込める体制をとる。


「今だよ」


「ボクが本気を出したら怖いんだぞ」


「えへへ。これでも食らえ~☆」


結界にひびが入り崩れ去った瞬間に合図を出す。それを聞いたケイトとケイコが握り拳を作り邪神目がけて殴りかかる。


【ぐぅ。忌々しい。この程度で我を倒せると思うな】


「皆下がって」


邪神が吠えるとともに禍々しい稲光が襲い掛かる。その様子に刹那が警告を発した。


「蒼、信乃」


「分かってる」


「うん……つちのと


紅葉がアイコンタクトをとると蒼はすでに術式を構成しており、信乃も頷き土の柱を出現させ邪神の攻撃を中和する。


紅葉と蒼がはった結界の力により相手の攻撃は皆には当たらず離れた地面へと落ちた。


「あれを食らっていたら今頃僕達は……」


「ああ、恐ろしい力だな」


地面があった場所には黒々とした風穴があいており、それを見てぞっとした弥三郎が呟く。伸介も同意して頷くも冷や汗が止まらない様子で生唾を飲み込んだ。


「この何100年もの間に邪神は力を取り戻していったからね。そう簡単には倒せない相手さ」


「ですが、おれの力を取り込めなかったことにより力を使えば使う程衰えていく事でしょう」


刹那の言葉に龍樹がそう説明する。


「時間が経てば経つほどこちらが有利になるって事だな」


「だけど相手もそれは分かってるんじゃないかしら。だから早いうちから私達を殺そうと躍起になってるんじゃないの」


伸介の言葉にレインがだけれどもといった感じに話す。


「こちらが仕掛けてなるべく早く奴の体力を削るしかあるまい」


「だが、再び結界を張られてしまったらまた攻撃が届かなくなるぞ」


栄人の言葉にアシュベルが難しい顔で問題点を伝える。


「あの結界を壊すのにおれ達の力を注ぎすぎたら、いざ奴を叩くって時に全力を出せなくなる可能性はあり得るな」


「俺達はともかくレイやアッシュは疲れが出てきたら上手く攻撃が当らなくなると思うぞ」


蒼があり得る可能性に悩ましげに話すと紅葉も同意する感じで言う。


「いくら神様達の加護の力が働いてるとはいっても、生身の人間がやれることは限られてますからね。超人じみた身体能力の持ち主なら分かりませんが」


「戦えない神子さんと信乃と真人と優人と文彦を守りながら戦うのにも限度があるしな」


優人が言うと今度は喜一が口を開いて語る。


「皆だからこそ僕が話した作戦を実行してほしい」


「作戦って……あの作戦になっていない内容のあれのことか」


「いつも通りの私達の実力で邪神と戦うだけというあれが役に立つというのか」


刹那の言葉に伸介が作戦の内容を思い出し言うと、隼人もこんな状況にもかかわらずその作戦に執着する理由を教えてくれと言わんばかりの顔で尋ねた。


「身構え過ぎちゃだめだって言ったでしょ。たしかに邪神の力は脅威だ。結界を張られるたびにそれを崩す事から始めていたら邪神が衰弱する前にこちらが疲労でやられてしまう。だけど、いつもの君達の実力を発揮すれば一発で倒せるはずだよ」


「オレ達の実力なら一発で倒せるとは、どういうことだ」


にやりと笑い説明された彼女の言葉に亜人が訝し気な顔で首をかしげる。


いつ相手の攻撃が来るかもわからない状況の中、刹那へと皆は視線を集め次の言葉を待った。

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