第6話 落第生徒(らくだいせいと)
〈ポンちゃん〉は、落ち着いた様子で続けてグワグワと鳴いた。
「えっ、そうなの」
シナモンの顔色が変わった。
「大変」
なんだなんだ、怪獣でも来るのか? 魔法王国ならなんでもあり得そうだ。
急に、無事に帰れるか心配になってきた。
「ビスコッティさんが、こっちに向かっているって!」
ビスコッティ。
この国の人の名前はみんな美味しそうだな。シューにあとで話せるかな。俺たちの世界のお菓子の名前。
「やっべえな!」
アマンドが取り乱している。
「なんであの人、僕たちがなんかやってるところに都合よく来るんだよ! いつもだよ!」
「ビスコッティさんて、こわいの?」
俺がそっとシューに聞いてみる。
「こわくないよ。王立図書館で働いてる人」
「問題はこれよ」
テンテンが、本を一冊取り出した。
読めない文字が書いてある。
「『七人の魔女の物語』よ。ほんとは禁帯出なの」
「キンタイシュツ?」
「持ち出し禁止の本だよ」
里中が早口で教えてくれた。ああ、あの赤いシール貼ってある本か。シュガアテイルでも持ち出し禁止の本に貼られているのは赤いシールらしい。
「それに、異世界から人を呼び出したなんて、どう説明しよう?」
それもそうだ。
「あと、大鍋だよ」
キャンプしようと思って、……っていう大きさじゃないなあ。
「グワアグワア」
「小鳥からの伝令。そろそろこちらからもビスコッティさんの姿が見えてくるあたり、って」
持ち出し禁止かあ。美桜が持ってる本も似たようなものだし、ほんとに俺たち似た者同士みたいだな。
いや、感心してる
「とりあえず、俺たちの姿は見えないほうがいいな?」
俺がそのあたり確かめると、
「そうだね。でも、……」
ボンボンが妙な顔をする。
「この中で、姿を消す魔法得意な人?」
ここには七人も魔女がいる。
しかし!
誰も〈できる〉、と名乗りをあげない。
「ごめんなさいごめんなさい! みんな落第生だから!」
「大丈夫」
テンテンが申し訳ながるのに里中が言った。
「とりあえず、鍋にかくれたらいいんじゃないかな」
それもそうだ。
「じゃ、コウレン」
「はい」
また、俺たちの身体は浮かび上がり、大鍋へ運ばれていった。
「あっ! ビスコッティさんだわ!」
遠くから歩いてくるビスコッティさんの姿が見えるとテンテンは言うのだ。
「またせまいところで、ごめんなさいね。私たち、なんとかビスコッティさん、ごまかしてみるから! あっ!」
コウレンが手元をあやまり、俺たちは大鍋の中に派手に落ちた。
「ごめんなさい!」
「大丈夫だよ!」
本当は三人ともお尻が痛かったけど、そんなことを言ってる場合じゃない。
「美桜、大丈夫か?」
「うん」
まったくこいつのおかげで、とんだお茶会だ。
「魔法王国か……」
里中は里中で、
「これは、とんでもないぞ」
そりゃそうだな。
「異世界の実在と、魔法文明。この発見をどうしたら」
五年三組のクラス委員、あまり今は大きなことを考えなくてもいいだろ。
「こんなんで、俺たち帰れるのかなあ」
「えっ?」
美桜と里中が同時に言った。
「ひょっとして、帰りたいの? お兄様!」
「帰りたいっていうのか、啓太くん!」
何を言っているんだ、こいつら。
「だって、掃除当番の途中だろ? 図書準備室散らかしっぱなしで、床には変な模様あるし!」
「どうしてお兄様は些末なことにとらわれるのよ!」
「そうだそうだ!」
「悪いけど静かにしたほうがいいかも」
上の方からシューがのぞいている。
「……ごめん」
俺たちは息をひそめ、ビスコッティさんの
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