第4話 ことの次第(ことのしだい)

 シューが配ってくれたお菓子は、スノーボールみたいな白くて丸い焼き菓子で、口の中でふわりと溶けた。


「おいしい」


 俺が思わず言うと、


「異世界でも通じるか! やった!」


 転がって喜んでいる。


「さて。整理しようか」


 アマンドは、また気取り出す。


「何も疑わずに出された菓子を食べて茶を飲んでいる。これはやはり、君たちは危険な存在ではないということだ」


 そんな風に思われていたのか。

 俺たち、鍋の中に来てからというもの、あわてておどおどしていただけなんだがなあ。


「まあ、失礼よ。ごめんなさいね。

 それに整理する、なんて。もっとやわらかい話をしましょうよ。

 まず、私たちが何をしていたのか、もう一度話すわね」


 テンテンが優しく話しはじめた。


「シュガアテイルでは、魔法学校を一通り終えると、それぞれ〈天命の書物〉を授かって、そこに書いてある課題をこなしてからその後の進路を決めるのね。得意な魔法にまつわる課題と進路が大抵書いてあるんだけど、」


 シューが苦笑いして言葉をはさむ。


「僕ら、それを授かれなかった落第生なんだよ」


 卒業証書みたいなもの? 不合格?

 テンテンが続きを話す。


「落第生はね。自分で進路を決めるために王立図書館で〈自分の書物〉を探さなければいけない。骨の折れる仕事よ」


 シナモンが言葉をついだ。


「私たち、同じように書物を探す仲間が七人見つかって、少しうれしくなっちゃったの。すぐ仲良くなっちゃった」

「ところで、この国には『七人の魔女の物語』という伝説があるんだ」


 その伝説は、七人の魔女が大鍋をかこみ、呪文を唱えるところからはじまる。


「災いに立ち向かう魔法薬を調合する場面なの」


 さっき、彼らは鍋をわざわざ作って囲んでいた。


「俺たち、薬作る邪魔しちゃった?」

「ううん、それがね、そうでもないのよ」


 意気投合した七人は、最初こう考えていたのだという。


「『ああ、この伝説が書かれた本が私たちの〈天命の書物〉なら、ひと息で七人片付くのになあ』」


 手抜きだ。

 サボりだ。


「それでね。落第すると、魔法を使う用事もなくなるから、みんな、何かしたくてうずうずしていたのね」


 まさか。


「まさか」


 美桜が小さな声で言った。


「まさか、遊びでそんなこと?」


 それに、アマンドが答えた。


「遊びじゃないよ。みんな、自分の〈天命の書物〉が見つからなくて焦っていたのもあるんだ」

「そうなの」


 ショコラが続けて、


「やってみたら、何かひらめくかもしれない。そんなことなんかを期待していたの。鍋を作って、囲んで。それだけだけど。

 でも、少し手ごたえがあった」


 そしたらまたシナモンが、


「あなたたちが現れたんですもの」

「……」


 美桜の様子がなんだかおかしい。


「どうして?」

「どうしてかしら。こちらは今おはなしした通りだけれど、そちらは、どんなかんじだったの?」

「わたし、」


 思いつめたような声が出て、みんな少し固まった。


「わたし、魔法の助けがほしくて、本に書いてあったおまじないをためしたの……」

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