七人も魔女がいる!

倉沢トモエ

第1話 召喚儀式(しょうかんぎしき)

 図書準備室の奥の方に、段ボール箱が積まれている。

 ぼろぼろだし、汚れてるし、いつからあるかわからないから、掃除当番はさわっちゃいけないことになっている。

 俺らもまあ、見る気にもならないけどね。


美桜みお


 こんなことになるから、さわっちゃいけないことになっていたに違いない。


「落ち着いて」

「落ち着くべきなのは、お兄様の方だわ」


 ここの掃除当番は五年三組の受け持ちで、今週は俺、桐野啓太きりの けいたとクラス委員の里中穣さとなか みのるが当番だ。さっさと床の掃除をして、机をふいて帰る。そのつもりで来たのに。

 なぜか妹の美桜がいた。四年三組。


「図書準備室のお掃除は月曜日と水曜日と金曜日じゃなかったの? どうして来たのよ。今日は木曜日よ?」

「明日の金曜日は運動会の振替休日だからだよ。それよりなんだよ、その床」


 しかも美桜は床に、黒のマジックペンでへんな模様を描いているところだった。


「俺、掃除当番なんだよ」

「掃除当番なんて、些末さまつなことで邪魔をしないでちょうだい」


 些末、って、俺は掃除当番だぞ。マジックペンの線なんて、何で消せばいいんだよ。


「私はこの本に選ばれたの。だからこうすることは天命なの」

「啓太くん」


 穣が指をさす。

 図書準備室のぼろぼろの段ボール箱が、開けられて散らかっている。

 いつもは段ボールがあるところを避けて、あの模様を描いていたのか。


「そこに入っていた本なのか?」

「違うわ、


 美桜は小さいころから魔女になりたいと言い続けてきた、そんなトンチキなところがある子で、かわいいのに惜しいといろんな人から言われ続けてきた。


「今こそ天罰てんばつを下すのよ。そのための力を私に授けるために、この本は出てきたのよ」

「ちょっと待て、目的は何だよ?」

「天罰なんて、おだやかじゃないな」


 クラス委員穣が間に入ってきた。


「運動会の件は聞いているよ。君のおかげで一応の解決をみたんじゃないか。そこで少し落ち着きたまえ」


 美桜が持ってる本は何なんだ。

『おしゃれ魔女っ子入門』って書いてあるぞ。図書館には占いの本とか心理テストの本とか妖怪の本とかあるもんな。あの種類にちがいない。

 ちょっと待ってくれ、誰かに天罰を下すようなおまじないとか書いてあるのか、『おしゃれ魔女っ子入門』。


「……」


 俺たちの話をよそに、美桜はへんな模様の真ん中に立って、なにか読み上げはじめた。


「出でよ、我が友、魔女よ」


 おいおい、魔女の召喚か?


「止めなきゃ。様子がへんになってきた」


 クラス委員穣は、なにかカンが働いたみたい。

 そういえば、窓の外が気づけば真っ暗だ。まだ午後二時くらいなのに。


「やめて!」


 俺たちがそのへんな模様に足を踏み入れた瞬間。

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