シロ
「白鷺さん、そこのやつ取って!」
今、教室の掲示板に貼られているプリントを取り替えているのは
クラスの中で全てが上位でありながら、
男子にだけでなく同性である女子にも好かれる人気者の天才だ。
彼女の桃色がかった白髪は二度見必至の美しさを誇り、濃い桃色の瞳はくっきり二重で
とても可愛らしい。
スタイルも良く、モデルのようだ。
そして何と言っても彼女の魅力は初対面の時に全員に
「どう接したらいいかな?」
と聞いて回った誠実さにあるらしく、
媚を売っていると見る人はほんの少しいれど
殆どの生徒からの評判が良かった。
「シロ〜〜、またテスト最下位だった!」
「全くアカったらぁ、ちゃんと勉強したの?
わからなかったところは教えてあげるから復習しようね?」
シロというのは叶絵の最も気に入っている
あだ名でその由来は苗字からと、叶絵が猫好きだから猫っぽいあだ名にしたかったらしい。
相手のアカというのは
アカはクラスと言わず学年でも成績が最下位であり、勉強をしても成績が上がらないという悲しき女の子でありながら、全く諦めない姿勢が男子からの人気を集めている。
「んじゃ、気をつけて帰れよー」
担任の思っているか思っていないのかわからない決め台詞の後、生徒はゾロゾロと教室を出て行く。
シロも鞄に荷物を詰めて教室を後にした。
「はぁ...今日は終礼が遅かったなぁ」
担任に対する愚痴を一人で呟いていると、
いつもシロの頭の中に浮かぶ違和感が顔を見せた。
シロは五歳の時に交通事故を目の当たりにしている。
飛ばされたのは小学生くらいの女の子で
水色の可愛いランドセルを背負っていた。
お母さんの手を離して道路に飛び出した女の子はあっと言う間に大型トラックに跳ね飛ばされ無惨な姿になっていた。
そんな可哀想な姿を見て、その子より年下だったシロが思ったことは普通とは異なっていた。
『綺麗...。』
あんな血塗れな惨状にどうしてそんな言葉が出てきたのか自分でも訳がわからなかった。
それでも、その血の赤を美しいと思い惹かれてしまったのだ。
あれ以降、誰にもそれを伝えられず
それを見たいのか起こしたいのかわからない謎の衝動,違和感に駆られながら十年以上の年月を重ねている。
それが一日に一回以上は思い浮かぶシロの違和感だった。
「私...変なのかなぁ。」
あの光景がいい物でないことも知っている。
遺体を可愛いと美しいと思ってしまった自分自身が普通でないこと、良くないこともわかっているつもりだ。
それは、殺人という行為が法律で禁止されているからとか、事故というものが悲しいものであるからとか説明を受けても理解しきれないもので、あの光景を作り上げたいというのはシロの本能に等しかった。
まぁ勿論、道徳とかを無視しても普通に捕まるからそんなヘマはしないつもりだけれど。
自分が人間である以上、人間の掟に従わなければならない。
これに逆らうのに個人的な本能というのは理由になり得ないのだ。
そんなことを考えながら家の前に着くと、
家に入る小さな門の前で横たわっている男の子がいる。
頭からは何か尖ったものが生えていて、
それが角なのだろうということは、人外の生き物をあまり見ないシロでも予想できた。
「ちょっと邪魔なんだけど...?」
学校での笑顔が嘘のように冷たい口調で男の子に呼びかける。
「...」
反応はなかった。
「ねぇ...」
シロは実は気が短い。
家に入れず、返事もしてもらえないことに
苛立ちを覚えていた。
「邪魔...」
そう言いながら男の子を抱え上げて、家の中に入れる。
捨てているところを誰かに見られては問題かもと思ったからだ。
男の子を床に寝かせ、自分は制服も脱がずに冷蔵庫に取ってあったアイスを頬張る。
「あぁ、染み渡る冷たさ!」
苺味の桃色のアイスを食べているとやっぱり
なんとなく思い出す。
あの日の光景を。
また起こしたい...。
「ん...?ここは。」
男の子が目覚めた。
「私の家、貴方が倒れてたから運んだ。」
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