第5話 遊園地で遊び!
遊びの約束をしてから数日。その約束の日がやってきた。
駅前の七公前。約束の時間まであと五分。
「早く来すぎたか……」
暇を持て余していた俺はスマホゲーをやる。
「よっ。祐介」
「なんだ。お前も来たのか。たける」
「よくよく考えれば、おれの支援がなければお前は間違った方向に進むからな」
「本音は?」
「お前らの修羅場が面白いからな」
そんな草を生やすような言い方に怒りを覚える俺。
「おい。遊んでいるんじゃねーぞ?」
「いや遊びにきたんだろ?」
「違いないな」
笑い合う俺とたける。
「男の子の友情って美しいものですね」
そう言って歩いてくる高坂さん。
「私も混ざりたいものです」
「と、言っても、なあ?」
「ああ。男同士にか分からないものもあるってこった」
「そこまで言うからには男らしいところを見せてくれるんでしょうね?」
「へ?」
「は。こいつはいっぱい食わされたな。祐介」
「そういうことなら、わたしも来たかいがあったってものね」
「良きかな。良きかな~」
「よう。お前たちも来ていたのか明理、菜乃」
「よう……じゃないわよ。男臭いわね」
「それも良きかな」
「あれ。菜乃は味方じゃないの?」
「それよりも妹さんは?」
菜乃と明理がじゃれ合っているうちに高坂さんが、こちらに訊ねてくる。
「あー。後で来るって言っていたな」
「そう。残念です」
「まあ、あいつもすぐに終わらせるって言っていたからな。安心だろ」
「ちゃんと彼女にも理解してもらわないといけないですからね」
「理解?」
「ふ。何を言っても無駄よ。高坂さん」
「あら。今までなにもしてこなかった自分を呪うのですね。明理さん」
「そうね。わたしにもチャンスはあったものね。でもポッと出のあなたに祐介を口説けるかしら?」
「口説ける? 何の話だ?」
「い、いえ。なんでもありません!」
「ほら。やっぱり勇気なんてないんじゃない」
「うぐっ。そういうあなたも!」
「げふっ」
「なんだか、二人が楽しそうにしていて良きかな」
「それは我の台詞かな」
「「仲良くなんてしていません!」」
「ほら。息ぴったりじゃないか」
「そう見えるかな。なら我はすぐにでも応えを出そう。祐介、好き!」
「ああ。俺も好きだぞ、菜乃」
「「へぎゃぁあぁぁっぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁっぁあぁぁぁぁっぁあ」」
「友達だもんな!」
「「「…………」」」
あれ? なんでみんな黙るんだ。
「くくく」
「何がおかしい。たける?」
「いや、お前の鈍感さにはいつも笑わせてもらっているってわけだ。それに、この結果を同級生たちに報告しなくてはいけないからな。おれの立場ってもんもある」
「どういう意味だ?」
「飢えた獣が大勢いる、ってこった」
「なんだ。それ。怖いな……」
「比喩表現だぞ? 理解しているのか?」
「そりゃ。分かるさ。それより早く行かないか? 遊園地」
「そ、そうですね!」
「行こう! 祐介」
「かなかな!」
「お前、分かっていないだろ……」
頭痛がするのか、頭に指をあてるたける。
※※※
駅から五つ西へ行くと、遊園地が見えてくる。
普段はこんなところまでこないから分からないが、リニューアルしたのか、壁紙や中のアトラクションが変わった雰囲気がある。
「久しぶりだな。前に行ったのは五歳のときか?」
「そんなに久しぶりなのですね。では苦手なアトラクションとかありまして?」
「ないわよ。ね? 祐介」
「ああ。あのときは、な」
なぜかふくれっ面をする高坂さん。
「そ、そうですか。それは良かったです」
「それにしても我はいつも蚊帳の外かな。いつになったら意識されるのかな?」
「菜乃。ごめんな。こいつらがうるさくて。静かな方が好きだろ?」
「そうでもないかな。賑やかな遊園地も好きかな」
「そうかそうか。それは良かった、って?」
高坂さんと明理が二人してふくれっ面になっているのだが?
「もう! さっさと行くわよ!」
明理の合図とともに園内に入る。
園内は綺麗に掃除されていて、客の数も多く、どのアトラクションも人数制限がかけられている。
「最初はどれに乗る?」
「ジェットコースターかな!!」
「おお! 乗り気じゃないか! 菜乃」
「いいね」「いいぞ」
「あれ。もしかして怖いのは私だけですか?」
「そうね」
クスクスと笑う明理。
「うぐ。私の完璧な作戦が……」
高坂さんが小さくうめくが、遊園地を指定したのは彼女だ。
「なんで嫌いなものがある候補で遊ぼうと思ったんだよ……」
たけるがかわいそうなものを見る目で見る。
なるほど。高坂さんを気にかけているたけるのことだ。きっと二人をくっつけるのがいいのだろう。うん。決めた。
「たける。たける」
「なんだ?」
「俺はお前の恋を応援しているからな?」
「はっ? なに言ってんだ? お前」
「……え?」
「え……?」
あ。そっか。照れ隠しという奴か。なるほど、理解した。
「まあ、気にするな。俺は一度言ったことは曲げないからな」
そう言って列に並ぶ俺。
「しかし菜乃ちゃんがジェットコースターが好きとは驚きね」
明理がまじまじと菜乃を見つめている。
「そうですね」
「あら。あなたは並ばずにあのベンチで待っていればいいんじゃない?」
「ふふ。お気遣いありがとうございます。私も試しに乗ってみようと思うのです。食わず嫌いは嫌ですからね」
「あらあら。さっきまで、青白い顔をしていたとは思えない顔ね。何があったのかしら?」
「今の私には前に進むことしかできないのです」
「ははは」
「ほほほ」
なんだろう。後ろの方で温度の冷めた戦いが繰り広げられている気がする。
前に進むとジェットコースターに乗る順番が回ってくる。
最後尾に菜乃と俺が座る。
「……え!」「……へ?」
最後尾に乗ったからには走り出してしまう。
「わりぃ。先にゴールで待っているわ」
「祐介! カムバックぅぅぅっぅっぅぅっぅぅっぅぅぅぅっぅぅうっぅぅ」
明理と高坂さんは次の番だ。そしてたけるも一緒だ。
「いや、ついでみたいな紹介をするなよ」
風を受け前へ進むコースター。
最初に高台までカタンカタンという音を立てて上り詰める。そして一気に下降。
右にふられ、左にふられ、上下し、最後にはスタート地点に戻ってくる。
「あー。楽しかった! お前らも楽しめよ! 先に行っているからな」
「ほほほ。私はやっぱり降ります」
「そうはさせないわよ。たけるくんと一緒なんて嫌よ」
逃げようとする高坂さんをとっ捕まえる明理。
「おれ、そんなに嫌われているのな……」
意味もなく傷つくたける。たけるよ。かわいそうな子。
「で、でも……!」
涙目になる高坂さん。
「わたしも怖いんだから、一緒よ! 死ねばもろともよ!」
「やっぱり死ぬんですね!?」
「いえ。死にませんから!?」
係員が涙目でツッコミをいれる。
「はっ。私としたことが!?」
「発進してください!」
「いや、おれも乗せろよ!?」
たけるが、その後ろに座る。そうして最後尾までモブが乗り切ると、コースターは発進する。
「稲荷。我、お腹すいたかな」
「おう。そうか。ならあそこでアイスでも食べるか?」
「うん! 我、甘いもの好き!」
とびっきりの笑顔を見せる菜乃。
「ようし。待っていろ。生きのいいアイスを買ってくるからな!」
「うん! 待っているかな!」
近くにあるキッチンカーで販売されているアイスを買ってくると、菜乃にわたす。
菜乃にはバニラ。俺はチョコミントを買ってきた。
「歯磨き粉の味かな……」
「あん!?」
「ひっ。なんでもないかな!」
「たまにいるんだよ。チョコミントは歯磨き粉って。うざい。どこが歯磨き粉やねん! どう考えても人類が創造した最高の味だろ。まるで天にも昇る心地! 最高だね! これをマズいと言えるのは神への
「あ。マズい奴を食べていますわ」
「歯磨き粉の味だろ?」
「し! 祐介はチョコミン党だから!」
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