テンプレ・カノジョ!

夕日ゆうや

第1話 ラブコメのテンプレ!

「ねぇ。祐介ゆうすけ起きてよ。起きないと、このラノベ燃やすよ?」

「はう! それはダメだ!」

 俺は焦りにまかせて上体を起こす。

 と、目の前におっぱいが広がっていた。この大きさは明理あかりのものだ。

「おうふ」

「もう! なにしているのよ!!」

 そのおっぱいを堪能していると、明理が怒る。

「まったく! エッチなんだから……」

 ぶつくさと文句を言う明理。でも馬乗りになっていたのはあなたでしょ? 起き上がったときの体勢を想像できたはず。

 ということで脳内裁判は無罪。

「俺は無罪だ」

「犯人はみんなそう言うのよ」

「いやいや、犯人じゃない人もいうよ!?」

「はいはい。分かったから。今日から新学期よ?」

「あ。やべ!」

 俺は慌てて着替えを始める。その頃には明理は部屋の外に出ていた。

 いくら幼なじみとはいえ、異性の裸を見るのはNGらしい。

「まあ処女だしな」

「うっさい!」

 ドン、っと大きな打撃音が響き、ドア越しに否定の声が届く。

「もう、またお兄ちゃんがあかりんをいじめているの~」

 間延びした、今にも眠りそうな怠惰な声音が聞こえてくる。

 妹のももだ。別に桃から生まれたわけでもないが、彼女は小さい頃にうちに引き取られて、兄妹同然で育った。だから彼女も俺も家族としてしか見られない。

「もう、お兄ちゃんはデリカシーがないの~」

「そだよね。もっと気遣い、ってか。そういうのが必要だと思うわけよ」

「はいはい。今度から気をつけます」

 そう言い終えると着替えも終わった。あとは鞄を持って学校に向かうだけ。

「それじゃいくぞ」

 俺はドアを開けて、明理と桃を見渡す。

「起こしたのはわたしなのに、ご褒美もないのね」

 機嫌が悪そうな明理に、俺は困惑する。頭をガシガシと掻き、ご褒美を考える。

「分かった。よしよし」

 俺は明理の頭をなでることにした。

「ん。お兄ちゃん、ナイスフォロー」

 明理は耳まで真っ赤にして硬直している。これはどんな状態だろうか? 困り果ていると、

「もももなでてほしいの~」

「え。あ、うん」

 普段は「子供扱いしないで!」って怒るのに、なんでこんな時に?

「まあ、いいけど……」

 俺はあいている手で桃もなでる。

「ん。悪くないかも~」

「はっ! 早く高校に行かないと!」

「そうだった! こんなことをしている場合じゃない」

「えへへへ」

 バグったままの桃を引っ張り、俺と明理は高校を目指す。ちなみに桃は中学で、ここから歩いて数分のところにある。

「じゃあな。桃」

「一生忘れません! お兄ちゃんの思いの分まで生きます!」

「なんで今生の別れみたいなんだ!?」

 相変わらずののんびり口調だが、ぼけとしては弱い。

「ほらほらもう高校に行かないと」

「ボケるなら、こうしないと」

「いやボケじゃないから」

「このテンポの良さよ。妹よ、分かったか?」

「分かったの~。お兄ちゃんも勉強頑張ってねぇ~」

 いつの間にか中学に向かう角にいる桃。

「あんなにちっさかったのに、もうこんなに成長しているなんて……」

 感動で目頭が熱くなる思いだ。

「いや、それ昨日もやったでしょ? なんなら今年いっぱいからそんな風になって」

「なに、兄離れしていく妹にショックを受けているだけさ」

「まあ、二人ともべったりだからね。その気持ち、わたしにぶつけてもいいのよ?」

「いやいや、明理さんにはいつも助けてもらっていますので」

「なんでそこで頼らないのよ! わたしの言い方が悪かったのかしら?」

 混乱している明理を置き去りに、俺は丁字路を曲がる。

 ――と。

「うおっ!?」

 目の前には大きな馬車が一台。

 ウマが俺にぶつかってきたのだ。娘ではないに若干の不満を覚える。

 その幌馬車から降りてきたのは一人の少女。

「ごめんなさい。うちの者が傷つけてしまったようで」

「は、はぁ~」

 少女は白いワンピースを着て、麦わら帽子を頭にのせている。顔立ちは整っており、西洋人形のような印象を受ける。肌はみずみずしくて透明度の高い白。金髪のさらさらロングが風に揺れてなびく。

 クスッと笑った笑みは、碧い瞳を揺らす。

 俺は見とれてしまった。その綺麗な姿に。

「ごめんなさいね。うちのものが」

「い、いやいいんだ。それより、そっちの怪我は?」

「安心です。シートベルトと、エアバッグのおかげで助かりました。これは謝辞ということで」

 そう言ってポーチから札束を差し出す金髪さん。

「ええと」

「慰謝料よ。安心しなさい純日本製よ」

「そりゃそうだろ! 日本製じゃなかったら、受け取れんわ!」

「じゃあ、受け取ってくれるのですね! ありがとうございます!」

 幌に戻ろうとする金髪さん。

「ではまた」

 そう言って幌馬車は走り出す。

「ちょっとなによ。今の!」

 怒りを露わにする明理。

「祐介が怪我をしていないか、も確かめないで」

 ぷんすかと怒る明理だが、正論を言っているので、俺は首肯することしかできなかった。

 しかし……。

「なんであの幌馬車、俺の高校に向かっているんだ?」

「わたしたちの高校ね。さあ、なんでだろ? お偉いさんの話し合い?」

「だとしたら何を?」

 正直、うちの高校は治安がいいほうだ。それは進学校ということもあるが、できた大人たちが集まっているからだ。

 とはいえ、問題がないわけではない。そういったとき、生徒会に相談すれば大概のことは解決できる――自浄作用があるのだ。その方法は様々だし、みな真剣に考えているが故の結論。それに月一でカウンセラーが訪れるのも大きいだろう。

 頼りにできる場所があるというのは生徒にとって、とても心強いもの。

 家庭環境、いじめ、不良、登校拒否、進学などなどのストレスはかなり軽減されている。

「でも美人さんだったの~」

「そうね。って……桃、学校は?」

「すぐに着くから安心なの~」

 そう言って元来た道を折り返す桃。

「何だったんだ?」

「自分で気づきなさいよ」

 プリプリと怒って前を歩く明理。

 確かに。いつまでも他人に任せきっりではいけないだろう。となれば、桃が戻ってきた理由を考えねばならない。

 桃が学校を遅刻してまで俺の様子を見に来てくれたのは、やはり心配だからだろう。

 そうだな。普通は兄妹で心配し合うのは普通のことだ。

「うん! なるほど」

「なにが分かったのか、分からないけど、分かっていないような表情をしているね」

 渋面を浮かべる明理。

 このにぶちんに分からせるにはどうすればいいのか、明理はそのことに悩む。

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