2話 鬼が強すぎるかくれんぼ




 あれは、確か毎年恒例の学校で行う夏祭りの時だったっけ。


 夜の学校に集まる機会ってなかなかない。


 先生やPTAの係の人たちが校庭に出店を作ったり、盆踊りの曲を流したり。


 保護者の参加もOKだったり、必ず土曜日と日程が決まっているから、クラスのみんなと先生が希望をすれば学校に泊まることもできるほど自由度も高い、みんなが楽しみにしているイベントだった。



 あのときは、小学6年生の時だったっけ。


 わたしたち6年1組のクラスは、盆踊り大会が終わった後に、学校でのかくれんぼを行うことにしていた。


 盆踊りとか、外のイベントが終わってからの1時間が予定されていた時間。


 学校の中といっても暗く危ないところもあるから、三人組で行動すること。単独行動はとらないこと。ただし、見える範囲なら分かれてもいい。


 だから、追いかける方も隠れる方も頭を使わなくちゃならない。  


 わたしの組のメンバーは、内田くん、花菜ちゃん、わたしの三人。


 二人の迷惑にならないようにしなくちゃって、ずっと思っていた。


 内田くんも花菜ちゃんも足が速い。だからわたしだけ捕まっちゃうようなことは避けなくちゃ……。



「それでは、これから予定どおりに校内でかくれんぼをやります。暗い場所もあるので、十分に気をつけてください。あと、雨が降り始めてしまったので、体育館は別のクラスが使う関係で、使えるのは校舎内だけになります。制限時間はみんなが隠れはじめてから、先生が校内にチャイムを流すまでの1時間です」



 それぞれのグループの代表が出て行って、じゃんけんで鬼が決まる。


「うわっ!」「げっ!」「マジ?」「これ勝てねーよ」


 みんなで振り返って、その結果をみると、内田くんが鬼だということは分かった。つまり、わたしたち三人がみんなを捜す役ってことだよね。


 逃げ足で遅れて二人に迷惑をかけるという心配はなくなった。


「内田と松本に追いかけられたらおしまいだ」


 わたしはホッとしたけれど、他の隠れる側のグループからすれば相当に厄介な結果だったみたい。


 それはそうだよね……。見つかったとき、あの二人に追い掛けられたら逃げ切るのはほぼ無理だもん。


 花菜ちゃんは、相手が男子であろうが関係ない。女子がからかわれたりいじめられたりしたら、その快足に勝てる男子はほぼいなくて、捕まえられてはその子のところに連れてこられて謝らせる。


 だから、花菜ちゃんがいる周りでは男子も手を出せないって分かっている。


 その反対側にいるのが内田くん。二人で校庭中を走り回る名(「迷」かもね)勝負を何度も見ているもん。そんなときはみんなで笑っちゃって、いつの間にか原因が何だったか分からなくなってた。



 わたしたちが6年1組の教室に残って、他のグループが散っていった。


「小口は捕まえた奴の見張り。松本は長距離ミサイルだな」


「そんな物騒な物に例えないでよ!」


 内田くんが打ち合わせるまでもない。ほかのグループのみんなも、わたしが追いかける役ではないという認識。ただし、内田くんと花菜ちゃんに追われたら勝ち目はないという意味だった。


 でもね、この時外で降り出した夕立のおかげで、みんなの想像していた作戦が全く使えなくなったのは……、(花菜ちゃんには申し訳なかったけれど)いい意味で面白くなったんだよね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る