追放2
んんんんー? 出来たんじゃないの~? これ、「癒やし」の魔術と言っていいよね?
私、癒やしの魔術使えるんじゃないの~?
私はやっと人並みに魔術が使えたのが嬉しかった。そしてそれは癒やし? 修復? の魔術ということだろう。
やった! やっと一人前になったよ! 適性発見! やれば出来る子!
念のために他の植物でも何度か試してみたけれど、その全てがなんとあっさり成功したのだった。
そして動物でも応用できるような感触もあった。残念ながら弱った動物も人間も見当たらないから確証はなかったけれど、でも、この感じではきっと同じように視えるだろうことは何故か想像がついた。
私は嬉しくなって早速いつもの部屋にとって返し、そして大魔術師さまにこのことを意気揚々と報告したのだった。
「私、折れたお花を元に戻せました! 私、癒やしの魔術が使えます!」
その言葉を聞いたときの大魔術師さまの顔といったら。
真っ青になった上に驚愕に目を見開いて、そして叫んだのだった。
「なんと聖女様に失礼な! それは聖女様だけの魔術。だがもう『先読みの聖女』様が別にいらっしゃるのだぞ! それを知った上でのその虚言か! 許せん! 不敬だ!」
ええええぇぇーーーーー!?
そしてその後どうなったのかというと。
なんと私は僻地へと追放されたのだった。
どうやらそういう大きな癒やしの魔術が使えるのは「聖女」だけで、そしてこの国には昔からその聖女は一人しか現れないのだと後から知った。しかも今回はどこを探してもいないから、とうとう多大な労力をかけて召喚までしたのだと。それほどの苦労の末にやっと現れる貴重な「聖女」様なのに二人なんてあり得ないということらしいのだが。
でも、でもさ。私も召喚された異世界の人だし、聖女かもしれないよね?
そりゃああのヒメみたいに人の上に名札は見えないけれど、同じ世界から召喚したんだから他の能力は同じかもしれないじゃないか。
だいたいその申告した能力を証明もさせずに嘘つき呼ばわりってどうなのよ。
どうも最近思っていたけれど、あの王宮の人たち、ちょっと頭が固すぎなんじゃあないの?
聖女が二人居たっていいじゃない。私だってまわりから少しだけでも優しくされたかったのよ。ただそれだけだったのに。
しかしどうやら結果的には私が突然聖女だと言い出したことになり、そしてそれが「聖女ヒメ」の耳に入り、その結果。
「そんな嘘を言い出してまで私をあなたと引き離したいのね! きっと彼女は私が幸せになるのが許せないんだわ。昔からそうだった。私は友達だと思っていたのに……悲しい! いつも感じていたこの悪意はきっと彼女のものだったのだわ。彼女は自分ではなく私が聖女だったから、きっと私を恨んでいるのよ。彼女が聖女じゃないのは私のせいではないのに……。彼女が王宮にいる限り、きっと彼女は自分が聖女だと嘘をつき続けるでしょう。もし周りの人たちがそれを信じてしまったらこの国はどうなるの? 私はあなたとこの国を、ただ守りたいだけなのに」
とかなんとか言って、あの王子に泣きついたとか。
それを人づてに聞いた私はまたかとうんざりした。
そうやって今まで散々大嘘を吹き込んで、一体何人の人を私から引き離してきたことか。
まさかここでもやるとはね。
感じていた悪意って、なんだそれ。私は良い暮らしとイケメンいいなーくらいしか思っていなかったのに。
人の上に名札が見えるってことは彼女も何らかの能力持ちなんだろうから、癒やしの魔術も使えるのかもしれない。だから彼女が聖女として暮らすことにはあまり疑問を感じてはいなかった。
しかし私がまごまごと使えもしない魔術を試されるという無為な日々を送っている間に、彼女はすっかりあの王子と王宮内の人々の信頼を獲得していたらしい。私はあっという間に「大切な聖女様を侮辱した」という罪を着せられて、めでたく追放とあいなったのでありました。
なんだかな。まさか異世界にまできてこの仕打ちとは。
というより、どうも全てが安易すぎでは?
いくらなんでも裁判もしないでいきなり断罪ってどういうこと? みんながみんないい大人なのに、ヒメの言うことは信じて私の言葉は何一つ聞かないって、おかしいんじゃないの?
と、しばらく悶々と考えていたのだが。
――ああ! わかった!
私は突然、天啓のようにひらめいて理解したのだった。
つまりこれは乙女ゲームの中なのだ。
しかももう、きっとあのヒメをヒロインにしたシナリオが動き出しているのだ。
どうりで攻略対象の王子やら私の世話役の大魔術師やら、誰もかれもが彼女の味方をするわけだ。まさかゲームの逆ハー設定が、ここでこんな形で生きてくるとは。
全てがヒメの都合の良いように進みすぎるこの事態。あの王宮の攻略対象でもある権力者たちが、そろいもそろって『先読みの聖女』というヒロインを盲目的に崇拝し始めたからとしか思えなかった。
つまりはきっとご都合主義そして主人公補正。
いやあ、傍から見ると異常だね……。
まるでどこかの新興宗教のようだ。しかも教祖はあいつなのだ。
だけどそれならこの展開は納得がいく。裁判もせずに全員がヒメの言い分を信じてあっさり有罪とか。
なるほどー。
私は辺境の、今まさに戦争真っただ中の国境に限りなく近い修道院へと護送される馬車の中で、思わずポンと膝を打ったのだった。
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