第22話思わぬ誘い
「伊月さん……。君が気になるからだよ」
「えっ……」
ある種告白めいた言葉に私は顔を赤くした。だが神崎さんは続けて言う。
「嫁入り前の女性に、ましてや義兄の男が何をやってるんだか……。それでも男かよって思うんだよね。まぁ精神的に参ってると思うけど、体的には何もなかったのがよかったよ」
「あっありがとうございます」
「いわば犯罪だよ! ったく! 放って置けるわけないよ!」
「まあまあ……落ち着いてください。神崎さん! 落ち着いてください」
熱く私のためと、必死に庇ってくる神崎さんの姿を見て、びっくりしたのと同時に少し熱くなり過ぎている神崎さんを私は正した。
「ごめん……。ちょっと熱くなり過ぎたかな!?」と神崎さんは私の言葉に落ち着きを取り戻したのか、小さく謝る。
「でもそこまでおっしゃってくれて、とても感謝します。私もめげずにいれそうです」
そう答えると神崎さんはにこやかな顔つきになり、店員を呼んでビールのおかわりを注文した。
「でも神崎さんは何故私のことにそこまで親身になってくれるんですか? ちょっと前の神崎さんのイメージと違ってて……。嬉しいやらなんやらで……」
と返答を返すと、神崎さんは照れ笑いをした後、私に向き直し真剣な目つきでこう言った。
「好きだからさ……放って置けないんだ」
その言葉と神崎さんの顔を見た時、とても冗談で言ったいる風には見えなくて、ドキッとして、思わず下を向いてしまった。こんな真っ向から自分の気持ちを言ってくれる人が目の前にいる事に私の鼓動は高鳴った。
どうしよう……。どう答えていいかわからないや……。私、今どきどきしてる……。
夜景を望めるレストランで、雰囲気がいい音楽が流れるこのしっとりした空間で、男性にそんなことを言われるとは思っても見なかった。
一昨日までの神崎さんはと全く違う印象を受けて、私はその言葉に微笑み返すと、神崎さんも微笑んで私に言った。
「誘ってもらったレストランでなんだけど、ちょっと話したいことがあるんだ。食事の後時間あるかな?」
「えっ……」
私は固まった。どう答えていいかわからずにいると、神崎さんは続けて言う。
「ああ、あまり重たく気にしないで。ちょっと出張でいいところ見つけたんだ。一緒に行ってもらえるとありがたい」
そう言われると、私はコクリと頷いた。するとテーブルに食事が運ばれる。
「さぁ、冷めないうちに食べよう。いただきまーす!」
神崎さんは、私に向き直すと美味しそうにパスタを頬張り笑顔になった。私もテーブルに運ばれたパスタとお酒を少し口に含むと、夜景の見える食事の場を楽しもうとフォークとスプーンを手に取りパスタを食す。この後の神崎さんとの展開を想像しながらパスタを口にしてその空間を楽しんだ。
※※※※
パスタを食べた後、私はお会計を済ませると、神崎さんの手招きでエスカレーターを上がる。上に行くのか、何があるんだろう? 姉と来た時は上には上がらず帰ったため、少し気になった。
エスカレーターが上に上がっていくと、全面ガラス張りの大阪の駅周辺を一望できる夜景スポットらしい場所に連れてこられた。
一面ガラス張りの、夜の駅を下方に望める場所。そして奥にはビルビルの間から山並みが目にできる場所。このビルにこんな場所があるなんて知りもしなかった。
その場所で神崎さんは、ベンチに腰掛けるように促す。ここはカップル御用達の場所なのか、私たち以外の男女も数名いた。
神崎さんは、ここに私を連れてきたかったらしく、「大阪支部のスタッフに聞いたんだ」とつぶやいた。
「わあ! 綺麗!」
私は大阪の都心を一望できるこんな場所がある事に感激した。
すると神崎さんは、「そのままでいいからちょっと僕の話、聞いてくれる?」とちょっと真面目な口調で話し出した。
「君が僕のことをどう思ってるかはわからない。でも、先日から伊月さん、君のことが気になって仕方ないんだよね。それに今回の旦那さんの件も助けになりたい。こんな俺で良かったら、付き合ってください」
「えっ……。どうして……。やっぱりサエさんと関係ありますか? 私はそんな出来た女じゃないし、つまらないかもしれない……。それに私はいつも助けられっぱなしだし……。そんな私の、そんな私の……。どこに……」
そう返答をすると、神崎さんは、一段と優しい顔つきになり私に向き直した。
そして……。
「この後少し時間ある?」
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